その87 天皇即位に伴う「恩赦」 「こんなものいらない!?」(岩城元)

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   政府は、天皇の即位に伴う2019年秋の「即位礼正殿の儀」に合わせて「恩赦」を実施するつもりのようだ。

   だが、絶対君主制などからは程遠い象徴天皇制の今の時代、皇室の慶事、弔事に合わせた恩赦は、果たして適切なことだろうか。天皇の即位がなぜ恩赦につながるのか――。それは内閣による皇室の政治利用としか言えないのではないか。

  • 恩赦の作業を担当する法務省(東京・霞が関、写真は旧館)
    恩赦の作業を担当する法務省(東京・霞が関、写真は旧館)
  • 恩赦の作業を担当する法務省(東京・霞が関、写真は旧館)

「更生の励みになる」は本当か?

   今回、恩赦がおこなわれれば、天皇と皇后が結婚した1993年以来、26年ぶりのことになる。さらに、さかのぼると1989年の昭和天皇の大喪の礼、翌90年の天皇(現上皇)の即位の礼の際にも恩赦が実施された。

   戦後10件の恩赦の多くは皇室の慶弔事に伴うもので、それ以外は56年の国際連合加盟に伴うものなど3件である。

   恩赦とは、裁判で決まった刑罰を特別に許したり、軽くしたりすることで、内閣が決定し、天皇が認証する国事行為である。

   中央更生保護審査会が本人らの申し出をもとに、日常的におこなっている「常時恩赦」のほかに、皇室の慶弔事などの際に、内閣が対象になる罪や罰を決めて一律におこなう「政令恩赦」と、一定の基準を設けて申請に基づいておこなう「特別基準恩赦」がある。

   恩赦をおこなう理由について、所管する法務省は「有罪の言い渡しを受けた人々にとって更生の励みとなる」と説明している。しかし、恩赦は定期的におこなわれるものではないし、自分が対象になるかどうかも分からない。そんなものが更生の励みになるとは考えにくい。

   また、恩赦がおこなわれた際に、たまたま刑に服していた人たちはその恩恵を受けられる。しかし、自分の服役中に一度も恩赦に出合わなかった人も多いはずだ。不公平ではないか。

加害者の恩赦に被害者の気持ちは......

   一方、国民から選ばれた裁判員が刑事裁判に関わる「裁判員制度」が始まって10年になる。判決までの過程で市民感覚が裁判に入り、犯罪の被害者の立場が重視されてきた。政府も犯罪被害者保護法を成立させ、被害者の救済に力を入れてきた。

   それらを差し置いて、被害者の気持ちとは関係なく、加害者が恩赦を受けることは、被害者には割り切れないものが残るだろう。

   また、これまでの恩赦では、公職選挙法の違反者の公民権を大量に復権させてきた。これは、政治家が自分たちの「支援者」を救うことにほかならない。

   恩赦がすべて論外というわけではない。先に書いた「常時恩赦」があるのに、皇室の慶弔事にかこつけておこなう恩赦には、合理的な理由が見いだせないのである。令和への代替わりを機に、きっぱりと決別すべきではないだろうか。(岩城元)

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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