「知らない」は通用しない 「キャッシュレス」はビジネスの大きなパラダイムシフトだ(大関暁夫)

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   最近のビジネス界においてキャッシュレスの話が話題にのぼることが多く、私のところにも地域の経済団体や金融機関などから、キャッシュレスをテーマにその基本的知識や展望についての講演やセミナーの依頼が多く寄せられています。

   中小企業経営者の方々の関心はどうかというと、じつはこれがいまいちで、きのうお目にかかった製造業の社長も「大企業や、日銭商売の小売り、流通業、商店主の皆さんはいろいろ頭を悩ませているようだけど、われわれ製造業にはあまり関係なさそうなので、当面静観でいいかなと思っています」と、「キャッシュレスにわれ関せず」の姿勢。中小企業経営者は本当に、この問題に無関心でいいのでしょうか――。

  • キャッシュレス時代がやって来た!
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給与振込の概念が変わるかも......

   確かにここ最近、新聞や雑誌などで取り上げられているキャッシュレスに関する話題の大半は、乱立ぎみのQRコード決済に関するキャンペーン実施の話題や、小売店がQRコード決済を契約した際の決済手数料の比較や導入に伴う機器設置の要否や初期コスト比較などです。

   これらは言ってみると、キャッシュレス化問題の下流部分にあたる話ばかりであって、どうもその源流である本来知るべき上流部分の話が置き去られているように思えます。そんな状況であるから、現金取引を主とする小売流通に関係のない事業の経営者たちは、どうもこの問題を身近なものとして捉えられていないのかもしれません。

   キャッシュレス化で押さえるべき本質はどこにあるかと言えば、まず何より最終的には現金取引が存在しなくなるという考え方です。すでに企業間での支払いのやり取りが振り込みを中心としたキャッシュレスになっているとはいえ、すべての現金がなくなるということになるならば、事業運営上のさまざまなシーンで大きな変化がもたらされることになります。

   もちろん、現金管理事務が削減されることで効率化に大きく資するであろうことは間違いありませんが、変化はそこにとどまりません。どの企業にも関係のある身近な一例を上げるなら、給与振込の概念が変わる可能性だってあります。

キャッシュレスが生む新たなビジネスの可能性

   給与は月給制が当たり前なわけですが、それには理由があります。

   現金支給の時代は給与を現金で振り分ける手間がかかると言うことや、銀行振込でもなお給与計算や振込手数料の問題があって、特殊なケース以外は月1回払いが適当であるとされてきました。これは雇用者側の都合でもあります。

   しかし、被雇用者側の都合で考えるなら、その日働いた分は即日支払ってもらったほうが間違いなくいいのです。給料を後先考えずに使いすぎて、給料日を指折り数えるなどということもなくなるわけですから。勤怠データがタイムカード連動でデジタル化されている現在の環境なら、日給制は十分実現は可能なのです。

   多くの労働者が日給制に移行するなら、サービス利用料や物品購入額の日払い分割制度などで手軽に利用、購入できるような、日払い給与を前提とした新しいビジネスも多く生まれる可能性を秘めているといえます。

   視点を変えれば、習慣上現金を当たり前としてきたようなもの、たとえばお祝い事のご祝儀や葬式の香典などの金銭のやり取りも、現金を伴わない新たなサービスの下で扱われるようになり、プライベートでもビジネスでもさまざまなビジネスが生まれる可能性を否定できません。

   現実に、キャッシュレス化が進んでいる英国では、子供の小遣いを専用カードにスマホ操作によりデジタルで入れて、日々の消費金額や、どこの店で何を買ったかの確認、あるいは好ましくないと親が考える店で買い物ができないように利用不可の店舗の指定など、親が管理できるお小遣いカードが普及しています。

   日本でも、今は現金以外に常識的にあり得ないと思われるものでも、一気にデジタルへ移行する可能性は大いにあるのです。

「通貨のやり取り」はすべての企業が避けて通れない

   キャッシュレス化の進展には、別の観点からのビジネスチャンスもあります。

   キャッシュレス化による通貨のデジタル移行は、通貨を単なる通貨としての流通価値だけではない存在に変えることにもなります。すなわち、誰が何をいつどこで買ったのかがすべての通貨やり取りに紐付けられることになるわけで、通貨の流通価値はもはや額面の金額だけではなく活用、流通しうる情報としての価値を持つのです。これは個人に限らず、法人同士のやりとりでも同じことです。

   通貨のやり取りを通じてそのやりとりに関する情報を容易に持つことが可能になり、その情報を分析、二次利用することで新たなビジネスチャンスも生まれるでしょう。今、QRによる支払サービスに参入する多くの企業が、しのぎを削っている理由はそこにあります。

   情報ビジネスはスマホと市販のアプリでも、さまざまなことができる今の時代、やり方一つで企業の大小を問わずにビジネスチャンスを作り出すことが可能でもあり、新たなビジネスは、すぐそこに転がっているかもしれません。

   また、これまでビジネスにおけるIT化の流れなど自社とは無関係と思っていた企業にも、通貨のやり取りという、すべての企業が避けては通れない部分のキャッシュレス化が進展することで必然的にその世界に引きずりこまれ、その順応力の有無が企業の運命を決定づけることにもなりかねないのです。

   1970年代にドル相場が世界的に変動相場制に移行すると、ビジネスの本格的な国際化時代が幕開けしたと言われ、「これからの経営者は企業の大小問わず、外国語と国際感覚を身につけていないと成功できない」と言われました。

   今、動き出したキャッシュレス化の流れは、この時に相当する、いやむしろこの時以上に大きなビジネスのパラダイムシフトであると言えます。これからの経営者は企業の大小問わずに、キャッシュレス化とそれに伴って変化するIT感覚を身につけていないと成功できない。そう言えるように思います。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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