突然ですが、読者のみなさま。電車で端から2番目の席に座っていると、ある駅で端の席の人が降りました。あなたはすぐに端の席へ移動しますか?
移動するという方も多いと思います。片側に人がいないのは気楽ですし、荷物を端に寄せれば、隣の人に触れる心配もありません。じつは私も、「端へ移動する派」です。
彼は私と同じ空気も吸いたくないのか?
「移動する派」の私ですが、これができるようになったのは、わりと最近です。
なぜなら、すぐに移動すると、私がまるで隣の人を避けているようで、相手が嫌悪感を持つのではないかと心配だったからです。「そんなに逃げるように移動しなくてもいいでしょ!」「私、臭くないですよね!」と思われるかも......と。そんな気の遣い方をしていたのです。
ほかには、通勤経路が同じ社内の人とバッタリ行き会った時も、困りませんか。雑談ぐらいすべきか? いや、プライベート時間を邪魔されたと受けとめられるか? そんなことを考えただけで、通勤時間がいつも以上に長く感じます。
特に異性の場合は気を遣いますよね。一見、些細かとも思われるかもしれませんが、組織ではちょくちょく、この席の問題が顔を出します。
私が秘書をしていたころ、役員2名分の新幹線チケットを手配したのですが、席を隣同士にしたら取り直しを命じられたことがありました。
移動時間を自分のペースで仕事したい役員の希望でしたが、今度は逆にもう1名の役員から「彼は私のことを嫌っているのか? 車両まで変えるとは、同じ空気も吸いたくないのだろうか?」と、真顔で尋ねられて返事に困ったことがありました。
「座席」裁判、場合によってはハラスメントに
これからの暑い季節ですと、エアコン直下の席を避けたいという問題も比較的ポピュラーでしょう。また、宴会の幹事さんの中には、誰と誰を隣にしたらいいのかまずいのか。そんな問題に悩んだ方もおられるでしょう。
最近クローズアップされているのは聴覚が多数派よりも敏感な人や音恐怖症(ミソフォニア)の人への配慮です。たとえば電話のそばなど、うるさい席から離れた席へ座ってもらうという合理的配慮が望ましいとされています。
そんなことまで会社や管理職が面倒を見るなんて、しんどいと思われる方もおられるでしょう。しかし、座席の問題が訴訟で争われた事例さえあります。
従業員が部屋の出入口に自席が指定されたことを「ハラスメントだ」と主張した裁判があったのですが、裁判所は会社ないし上司がその裁量によって座席を指定できるとして、従業員の主張を認めなかった一方、座席の指定が裁量の範囲を逸脱している場合には違法となる余地を残しました(2004年5月19日 東京地方裁判所判決、労働判例879号61頁)。
このように座席の問題は、一見些細に見えつつも、組織内の微妙な人間関係、希望の伝えにくさ、合理的配慮、ハラスメントの問題も関わる少々奥が深い問題です。
新年度を迎えて管理職になられた方、新人のOJT担当をすることになった方もおられることでしょう。座席の問題にも意識を向けると、業務がスムーズに進むと思います。(篠原あかね)