米中貿易戦争の真相やいかに? 1ドル札の「流転」がわかれば世界経済が見える(気になるビジネス本)

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世界を転々「旅する米ドル」

   1ドル札は、中国からドル借款で西アフリカのナイジェリアへ。借款はそこで鉄道建設などに使われたが、1ドル札は主食のコメを輸入するため、インドに旅立つ。インドから今度は、道路舗装に必要なアスファルト用の重質油と引き換えにイラクへと送られた。

   このようにドルは、外貨準備に力を入れる中国ばかりではなく、成長への足掛かりをつかみたいアフリカ諸国、成長過程にあるインド、中東の国々でも価値を持ち、国よっては自国通貨にとってかわる場合もある。

   旅を続ける1ドル札はイラクから、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘に必要な武器輸入でロシアへ行く。ロシアの銃器業者はドルの資産価値を高める目的で、1ドル札を含め手にしたドルをドイツの年金ファンドなどに投資。ドイツの金融機関はさらに高利回りでの運用を考え、金融の中心地であるロンドンに。ところが英国では「ブレグジット」をめぐる不安から、資金は米国を向くことになり、1ドル札は振り出しに戻ることになる。

   著者のダーシーニ・デイヴィッドさんは、英投資銀行のHSBCでエコノミストとして勤務していたところを、英放送局のBBCにスカウトされ経済番組のキャスターに。2006年、米ニューヨークに転勤。リーマン・ショックに端を発する08年の金融危機が世界的に広がり「お金には国境がないということ」がわかったという。

   米ドルは「いまや外貨が関係する取引の87%に使われている」ことを背景に、初の著作として本書が企画された。

   本書で監訳者を務めたジャーナリストの池上彰さんは「監訳者まえがき」で「ドルに焦点を当てることで、これほどまでに世界経済が見えてくるとは」と感想を述べ「読み物としておもしろく、国際情勢が理解でき、経済学も学べる」とも。一石二鳥ならぬ、一冊でマルチな楽しみがあるようだ。

   この「まえがき」では池上さんはまた、米ドルが第2次大戦後に「世界のお金」になった経緯を解説。こちらからも読者は大いに学べそう。

「1ドル札の動きでわかる経済のしくみ」
ダーシーニ・デイヴィッド著
池上彰監訳
花塚恵訳
かんき出版
税別1700円

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