先日、同じ日の午前と午後に企業規模の異なる二人の社長とお目にかかり、そのお悩みの好対照さがじつに興味深かったので紹介します。二人の社長とはともに60代前半。一人は東証一部上場企業のS社長、いま一人は中小企業の創業オーナーのT社長です。
S社長は親子上場企業の親会社出身。親会社からの天下りで役員部長職2年を経て、トップに座り4年目です。順調な業績を続け、現状その地位は安泰なサラリーマン社長です。
一方のT社長は、老舗で家業の一部門としてスタートしたIT通信系会社を自ら立ち上げて20年。現在は20~30代中心に200人を超える社員を従え、毎年増収増益を続けています。
サラリーマン社長がよかれと思い動いたことが......
S社長とは一対一で、今年度(2019年度)の方針をうかがう目的で訪問。激動の時代を乗り切る年度方針について、力強い話をうかがっているうちに、徐々に内なるお悩み話に話題は移りました。
「当社は企画部門と営業部門の一体感がないのですよ。私は日常から、営業に同行して現場の情報を極力仕入れることに努め、現場の代弁者としての役割も感じながら、企画部門にあれこれ注文をつけています。ところがそれがかえってよくないのか、どうも企画部門は私との間に距離を感じているようで、結果的に営業部門と企画部門との間に溝ができてしまっているような感じが拭えません」
大企業の社長が現場に入らずに、立ち位置が本社サイドに偏ってイエスマンを大量に生み出し、現場と本社の社員間に溝ができてしまうというのはよく聞く話なのですが、S社長の場合はまったく逆。これは珍しいケースだと思いながら、その理由をコーチング的にたずねつつ、解決策を自ら気づきを得ていただけないかと試みてみると、少しずつヒントが見えてきました。
「企画スタッフとの距離感の理由として思いつくのは、企画という会社の中枢を担う部門から見てその上に立つ私は、『仲間』ではなく『上から物言う目障りなヤツ』なのかなということ。それを解消する努力をしているのかと言われれば、していない私が悪い。私自身は、いつだって何かあれば取って変わられる立場なので、社員と同じ一サラリーマンとして接しているつもりなのですが、やはり相手からすると『社長は社長』なんでしょうね。
そのうえ『天下り』ですし。営業には支援に徹することでうまくいっているものの、企画部門とは対等な議論の相手になろうとして、言いたいことをストレートに言うと黙ってしまう。言えば言うほど、距離感ができてしまっているのかもしれません」
S社長は「天下り」という、やや特殊な事情はあるものの、一サラリーマンが社長になって「役員フロアにある社長室の人」になった途端に自分の意図とは別に、特別な人になってしまう。その特別感を、自ら意識して行動することが足りないのかもしれません。
自分は「天下り」意識はなくとも、相手はそうは思ってはくれない。自分は社員と同じサラリーマンだと思っていても、相手はそうは思ってくれない。「社長は孤独だ」と言われる実情は、じつはサラリーマン社長にこそ、あるのかもしれません。
社長は父親、だから「子ども」に口を出す
さて、同じ日の夕方に、今度は中小企業の創業オーナー社長のT氏を訪問しました。毎度見慣れた光景ではあるのですが、社内に足を踏み入れると、社長が本社社員の執務フロアで大きな声をあげて「あれはどうなっている?」「これを最優先でやれ!」などと、陣頭指揮という言葉がぴったりな、エネルギッシュな振る舞いで迎えてくれました。
じつは一部の幹部社員から、
「社長は来客がないと一人で社長室にとどまっていられず、頻繁に我々の執務スペースに来られて、事細かにあれこれ確認やら、指示やらされるので、自分のペースで業務に集中できません。部長よりエライ部長という意味で、『大部長』と我々は呼んでいます。『大部長』が出張で不在だと社内は平和なんです」
と、やや悲鳴にも近い声が以前から聞こえてはいました。
その日、午前中の話とはあまりに好対照な姿なので、思わずS社長の話を引き合いに、社長室にいる時間をもっとつくってはどうかと切り出してみました。すると......
「何を言ってるのかね。大企業とうちは違う。中小企業の社長は社員の父親です。言ってみれば幼い子どもたちが危ない目に会うことなく、人様に迷惑をかけずに接していけるようにちゃんと見届けてあげるのが親の責任です。
万が一子どもが悪いことをしたら、親は『知りません』では済みませんから。子どもが成長して手を離れるまでは、徹底して口出しして指導していくのは、子どものためでもあり会社のためです。どうしたら、私が一日中社長室に篭っていても会社が何の心配なく回るようになるのか、それが私の最大の悩みですよ」
どう一歩を踏み出すか
これが同じ「社長」業かと思うほど、大企業と中小企業、サラリーマン社長とオーナー社長では、こんなにも違うということを、同じ日の午前と午後でまざまざと見せられる思いでした。
組織の大きさや、トップの組織との関わり方に起因するそれぞれのお悩みは、トップ自身の意識や振る舞いの有り様を変えることに解決の糸口があるとわかっていても、なかなか一歩が踏み出せないものです。
しかも大企業のトップは大企業トップ同士、あるいは中小企業のトップは中小企業トップ同士ばかりでのつながりでは、似た者同士の慰め合いの域をなかなか脱せません。ならば相互間の交流、言ってみれば「社長」と名のつく者同士が、対等に話ができる異業種交流があれば、意外にお悩み解決のヒントを得て一歩を踏み出すきっかけづくりになるのでは。二人の「異業種社長」のお悩みを目の当たりにして、そんなことをふと思った次第です。
(大関暁夫)