社長は父親、だから「子ども」に口を出す
さて、同じ日の夕方に、今度は中小企業の創業オーナー社長のT氏を訪問しました。毎度見慣れた光景ではあるのですが、社内に足を踏み入れると、社長が本社社員の執務フロアで大きな声をあげて「あれはどうなっている?」「これを最優先でやれ!」などと、陣頭指揮という言葉がぴったりな、エネルギッシュな振る舞いで迎えてくれました。
じつは一部の幹部社員から、
「社長は来客がないと一人で社長室にとどまっていられず、頻繁に我々の執務スペースに来られて、事細かにあれこれ確認やら、指示やらされるので、自分のペースで業務に集中できません。部長よりエライ部長という意味で、『大部長』と我々は呼んでいます。『大部長』が出張で不在だと社内は平和なんです」
と、やや悲鳴にも近い声が以前から聞こえてはいました。
その日、午前中の話とはあまりに好対照な姿なので、思わずS社長の話を引き合いに、社長室にいる時間をもっとつくってはどうかと切り出してみました。すると......
「何を言ってるのかね。大企業とうちは違う。中小企業の社長は社員の父親です。言ってみれば幼い子どもたちが危ない目に会うことなく、人様に迷惑をかけずに接していけるようにちゃんと見届けてあげるのが親の責任です。
万が一子どもが悪いことをしたら、親は『知りません』では済みませんから。子どもが成長して手を離れるまでは、徹底して口出しして指導していくのは、子どものためでもあり会社のためです。どうしたら、私が一日中社長室に篭っていても会社が何の心配なく回るようになるのか、それが私の最大の悩みですよ」
どう一歩を踏み出すか
これが同じ「社長」業かと思うほど、大企業と中小企業、サラリーマン社長とオーナー社長では、こんなにも違うということを、同じ日の午前と午後でまざまざと見せられる思いでした。
組織の大きさや、トップの組織との関わり方に起因するそれぞれのお悩みは、トップ自身の意識や振る舞いの有り様を変えることに解決の糸口があるとわかっていても、なかなか一歩が踏み出せないものです。
しかも大企業のトップは大企業トップ同士、あるいは中小企業のトップは中小企業トップ同士ばかりでのつながりでは、似た者同士の慰め合いの域をなかなか脱せません。ならば相互間の交流、言ってみれば「社長」と名のつく者同士が、対等に話ができる異業種交流があれば、意外にお悩み解決のヒントを得て一歩を踏み出すきっかけづくりになるのでは。二人の「異業種社長」のお悩みを目の当たりにして、そんなことをふと思った次第です。
(大関暁夫)