インバウンド拡大にATMの負担軽減、脱税防止にも効果
増加が続く訪日外国人旅行者は2020年の東京五輪、2025年の大阪・関西万博でさらにボリュームアップが見込まれるが、政府は「20年までに外国人が訪れる主要な商業施設、宿泊施設及び観光スポットにおける100%のキャッシュレス化を強く促している」ところで、国全体のキャッシュレス決済の比率を25年に40%、将来的には80%にまで引き上げたいとしている。
キャッシュレス化推進はインバウンド拡大ばかりが目的ではない。別の主要目的として「現金のハンドリングコストの削減」がある。本書で引用されている日本銀行のデータによると、わが国の貨幣(銀行券)の1年あたりの製造コストは約517億円にのぼるが、現金を使わなくなれば、このうちの少なからざる割合を減らすことができるだろう。わたしたちが現金を手にするために使うATMは全国に約20万台あり、ボストン・コンサルティング・グループの推計でそれらにかかる維持管理コストは年間2兆円。こちらの軽減効果も大きいだろうと想像できる。
キャッシュレス化が進めば金の流れの捕捉が容易になり、税金のとりはぐれを防ぐ効果もあり、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止にもなるとみられている。
利便性の陰には......
キャッシュレス決済には、クレジットカード、デビットカード、ICカードのほかスマホを使う方法などがある。スマホ決済のうちでも、主流化が有力視されているのは「QRコード決済」のようだ。本書では、アップルペイなどクレジットカードを登録して使う別のスマホタイプも含めて詳しい説明を加えている。「QRコード決済」は「百花繚乱」の状態で、主なサービスごとに紹介がされている。キャッシュレス決済の導入を個人的に考えている人にも、考えていない人にも、社会の中で今後普及していくことは間違いないようで、その動向を知っておくことは悪くはなさそうだ。
本書の後半では、それがメーンとなるのだが、キャッシュレス社会のなかに身を置くにあたっては注意しなければならないことが少なからずある。好むと好まざるとにかかわらず「信用スコア」の対象となり、消費を通じて「監視」されるようになり、また、個人情報の漏洩リスクに向き合うことも考えなければならない。
10月の消費税増税にあわせて国は「キャッシュレス・消費者還元」を実施する計画。キャッシュレス関連の事業者を巻き込んでのキャンペーンで、キャッシュレス決済推進の一環でもある。それまでにキャッシュレス化を知っておくためには格好の一冊。
『キャッシュレス覇権戦争』
岩田昭男著
NHK出版
税別780円