令和の時代の幕開けにビジネス界のリーダーたちから、新時代が雇用の転換期になることを予感させる発言が相次いだ。
日本企業の伝統である「終身雇用」について「制度疲労」「守っていくのは難しい......」と。発言はさまざまに取り沙汰されて、そのインパクトは大きいようだが、平成の時代から若者たちの多くはそのことに気づいており、終身雇用など、とっくにアテにはしなくなっているのだ。
「起業家のように企業で働く 令和版」(小杉俊哉著)クロスメディア・パブリッシング/インプレス
経団連会長、トヨタ社長が相次ぎ発言
「起業家のように企業で働く」は2013(平成25)年に、若者の就業マインドの変化の変化をとらえて刊行された。就職した企業の力を活用すれば、当時もてはやされていた起業家のように働けることを説いてヒットし、14刷を重ねるロングセラーになった本だ。起業家のように働くうえで、滅私奉公的な勤務の見返りである終身雇用などは眼中になく、視線の先に据えるべきはステップアップの転職や独立だ。
平成時代の後半にかけては、働き方改革など政策の転換もあり雇用環境が変化。人材側も伝統的就業意識は薄れているというわけで、現実には終身雇用はすでに前提ではない。雇用側から言われる前から、新時代に働き方がさらに変わるのはわかっていた――。「起業家のように企業で働く 令和版」は時代の転換を見越して、一層「起業家のように働く」ことが、人材側に対する時代の要請であると説く。
ゴールデンウイークが終わってすぐに、日本経済団体連合会の中西宏明会長(日立製作所会長)が「制度疲労を起こしている」と指摘。それを受けるかのように、トヨタ自動車の豊田章男社長が「守っていくのは難しい局面に入った」と述べ、遠くない時期に制度として放棄する可能性をあることをにおわせた。ふたりの発言はさまざまに取り沙汰され、インターネットでは若者らが不安の声をあげている。
そんな若者たちに対しては、本書はこう突き放す。
「いまや企業は、採用した人材を定年まで面倒みるなどということは前提としていない。企業経営に対して貢献していない人を長期的に雇い続けるほどの余裕はもはやない」