大相撲の横綱・白鵬が「日本国籍」取得の手続きを進めていることを明らかにした。2019年4月18日付の新聞各紙が一斉に報じた。
日本の国籍法は複数国籍を認めていないので、白鵬は日本国籍取得と引き換えに、生まれ育ったモンゴルの国籍を捨てなければならない。
横綱・白鵬「日本国籍」取得へ動く
白鵬はかねて、引退後は「親方」になって後進の指導に当たりたいと話していた。ところが、日本国籍を持つ者でないと、親方になれないという日本相撲協会の規定がある。そのため、白鵬は日本国籍を取得することにしたのだ。
この規定について協会は、「大相撲は日本の文化であり、力士を指導する親方が外国人では、正しく教えることができない」と主張している。
白鵬の父親は息子の国籍変更に反対していたが、昨春(2018年)、亡くなる前に理解を示したことから、白鵬も日本国籍取得の決意を固めたと伝えられている。心の中ではいろいろと葛藤があったようだ。
ところで、親方が外国人ならどうして、日本の文化である大相撲を正しく教えられないのか? 正しく教えられるかどうかは、外国人であろうと、日本人であろうと、人それぞれで、国籍とは直接の関係がないことではないのか。
この2月に亡くなった日本文学の研究者で翻訳家でもあった米国生まれのドナルド・キーンさんは2012年に日本国籍を取得したが、米国籍であった時も、日本の文化についての識見は、大方の日本人をはるかにしのいでいた。
また、米大リーグ・マリナーズのイチローさんはこの4月30日、球団と傘下の3Aチームを指導する「インストトラクター」に就任した。
大相撲が日本の文化であるなら、野球は米国の文化である。そして、後進を指導するという点では、大リーグのインストラクターは日本の大相撲の親方に似ている。でも、イチローさんが米国籍を求められたとは聞いていない。
日本相撲協会の話は「誠に情けない」ではないか
百歩譲って、日本の文化を教える親方には日本国籍が必要だという日本相撲協会の言い分が正しいとしよう。
そうであるなら、白鵬が外国籍のまま務めてきた「横綱」という地位もまた、日本の文化そのものではないのか。考えようによっては、そんじょそこらの親方連中よりも、後進への影響力はずっと大きいように思う。
じゃあ、なぜ、そんな横綱に日本国籍を求めなかったのか?
話を広げれば、幕内の外国人力士あたりには日本国籍を求めてもおかしくはないのではないか。
でも、そんなことはとてもできない。大相撲は長い間、モンゴルはじめ多くの外国人力士に支えられてきた。日本国籍を義務づければ、たちまち力士の成り手が減ってしまうだろう。
一方で、今は外国人力士がいっぱいなので、外国籍の親方を認めれば、日本人力士が親方になりにくくなる。日本相撲協会の主張には、そんな計算も働いているのではないか。
そうだとしたら、誠に情けない話である(岩城元)