トランプ米大統領の「ブチ切れ」は本物? 「米中暗雲」を新聞報道から読み解く

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   「令和のご祝儀相場」という期待が一挙に吹き飛んだ。

   トランプ大統領が2019年5月5日、突然、対中関税の大幅な引き上げを宣言したためだ。最終合意目前とみられていた米中貿易交渉は一気に暗雲が立ち込め、令和初頭の東京株式市場は2日連続で大幅下落した。

   いったい何が起こっているのか。世界と日本の経済はどうなるのか。5月8日付の主要新聞朝刊の報道から「米中のこれから」を読み解く。

  • 突如変心したトランプ氏の真意は?〈(C)FAMOUS〉
    突如変心したトランプ氏の真意は?〈(C)FAMOUS〉
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最終合意を一変させた中国の「産業補助金」

   トランプ米大統領を突然ブチ切れさせたものは何か――。もっとも詳しく背景を説明しているのが日本経済新聞だ。

「米国の態度を硬化させたのは、中国の産業補助金をめぐる問題だ。補助金は中国の『国家資本主義』の根幹をなすが、米国は撤廃を求める。米中は知的財産保護など90%超の部分で決着していた。ただ、補助金をめぐり最後まで折り合えなかった」

   「産業補助金」とは、習近平国家主席が掲げる産業育成策「中国製造 2025」にそって、中国経済を支える情報・ハイテク技術や航空・宇宙、バイオ・医療機器などの先端産業に支出しているとされる補助金のこと。世界貿易機関(WTO)は輸出を促進するための企業への補助金を原則禁止し、それ以外の補助金も報告を求めている。しかし、中国はほとんど報告をしておらず、欧州や日本からも批判されてきた。中国政府は、実際に補助金を出しているのは地方政府であり、全容の把握や取り締まりは難しいとの立場で逃げてきた。

「米国は協定の案文に中国が補助金制度の改革案を明記することで合意していたと考えていた。しかし中国は(土壇場で)協定に明記せず、国内の法改正で対応すると後退した」(日本経済新聞)

   これに怒った米通商代表部のライトハイザー代表が、トランプ大統領に強硬策を進言した。それまで、「中国との協議は非常にうまくいっている」と語ってきたトランプ大統領は激高。「10日に10%の関税を25%に引き上げる」と表明したというわけだ。

   もう一つの理由を、読売新聞が説明する。

「大詰めの交渉で、焦点となっているのは中国の産業政策そのものだった。技術の強制移転が大きな問題になった。米企業が中国市場に参入する際、中国政府が許認可権などを使って、技術移転を事実上、米企業に強制している」

   中国はこうした問題について、防止策の法改正をいったん約束したのに「骨抜き」にしたというのだ。

政権幹部も認めるトランプ大統領の「チャブ台返し」

   今回のトランプ大統領の「関税引き上げ」宣言は、交渉を有利に導くお得意の「脅し」なのか、あるいは「本気」なのか。確かにトランプ大統領は、これまでも交渉のヤマ場で相手を恫喝する手法を繰り返してきた。

「昨年大詰めを迎えた北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉でも、『NAFTAを脱退する』と威嚇してカナダとメキシコの歩み寄りを求めた」(産経新聞)
「『最終局面で膠着させ、相手に最大限の譲歩を迫るのは我々の常とう手段だ』(米通商代表部高官)」(日本経済新聞)

と、米政権幹部自ら、交渉大詰めでの「チャブ台返し」を認めるありさまだ。

   しかし、「メンツを重んじる大国」中国にはこの手法は通じるのだろうか。それには新聞各紙とも、一様に危惧する見方を伝えている。

「香港紙サウスチャイナ・モーニングポストは6日、習近平主席がさらなる譲歩を拒否していると報じた。中国側は『頭に銃を突き付けられた状況で交渉はしない』(政府関係者)とクギをさす」(毎日新聞)
「7日付中国メディアは、トランプ大統領の交渉戦術と分析しつつ、実際に追加関税率が引き上げられた際には『同様の対抗措置をとる』(環球時報)、『自国の利益が損なわれるのを座視しない』(チャイナ・デーリー)と警告している」(産経新聞)

   中国側もこれ以上一歩も引けない事情を抱えていると指摘するのは朝日新聞だ。

「米IT企業への市場開放は、(中国の)安全保障に関わり、(産業補助金の)国有企業支援も社会主義体制を支える手段だ。譲歩は指導部への批判を招きかねない。破談を避けつつ国益を守る難しい交渉になる」

トランプ大統領の「本気度」は4~5割と専門家

   米国が10日に25%の関税アップに踏み切れば、中国も相応の報復に踏み切るだろう。専門家たちは現実に起こる可能性をどのくらいと予想しているのか。

「トランプ発言について、『けん制球』との見方が多い。米ゴールドマン・サックスのエコニミスト、アレックス・フィリップス氏は関税引き上げ確率を4割とみる。『週内の協議で進展があれば、大統領令で関税引き上げを見送るだろう』(同氏)」(日本経済新聞)
「大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは『トランプ氏は予測不能。可能性は五分五分だ』という厳しい見方を示す」(毎日新聞)

   いずれにしても、たとえ10日の関税引き上げを回避できたとしても、

「みずほ総合研究所の長谷川克之チーフエコノミストは『直ちに実行されなくても、米中協議が難航することは避けられなくなった』とみる」(日本経済新聞)

と、連休前の楽観論は吹き飛んだ形だ。

   もし交渉が決裂して米中貿易戦争が勃発したら、世界経済にどんな影響を与えるだろうか。各紙が口をそろえて指摘するのは、経済協力開発機構(OECD)が2018年11月に発表した、米中貿易協議が決裂して互いの全輸入品に25%の関税を上乗せし合った場合の試算だ。

「米国の国内総生産(GDP)は0.8%、中国は1.0%、世界全体は0.4%押し下げられる。世界同時不況の懸念も高まってくる」(産経新聞)

米中激突のトバッチリが安倍首相に?

   米中決裂の場合にもう一つ心配されるのは、5月中旬から始まる日米経済交渉に与える影響だ。

「来年の大統領選を見据え、トランプ政権は貿易問題で一定の成果を上げたい。中国との交渉が決裂すれば、日本から早期に果実を得ようとするだろう。日本側にとって夏の参院選前の5月の妥結は避けたい。ただ、楽観はできない。米中の交渉が頓挫したり、トランプ氏が方針を変えたりすれば、米側が対日交渉に関心を寄せ、強気の姿勢に出る可能性はある」(日本経済新聞)

   また、世界同時不況の危機となると、今年10月に予定している税率10%への消費増税はできるのか。その問題に唯一踏み込んだのが産経新聞だ。

「世界経済の急減速は必至。安倍首相は『リーマン・ショック級の出来事がない限り予定通り行う』としているが、世界経済減速の色が濃くなれば、増税の延期圧力が高まりそうだ」

   消費増税には直接触れてはいないが、新たな不安材料に注意を呼びかけたのが読売新聞だ。

「内閣府が5月13日に発表する3月の景気動向指数で、基調判断を(『景気悪化』に)引き下げる可能性が高まっている。5月20日に発表される今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値についても、民間調査機関は12社中8社がマイナス成長を予想している。輸出の不振に加え、堅調だった設備投資にも陰りが出るとの見方が大勢だ」

というのだ。

   すでに、日本の輸出や生産には米中摩擦の悪影響が出ているというわけだ。5月中旬以降の経済指標にも注目したい。

(福田和郎)

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