15~30秒の情報密度の高い動画、「ショートムービー」。それがいま、中国で新しい展開を見せている。
新たな展開の中心にあるのがショートムービーアプリの「抖音( Douyin=ドウイン)」。海外版である「TikTok(ティックトック)」が2018年、日本の流行語大賞にノミネートされたのも記憶に新しいところ。この「抖音」、中国では「幅広い生活シーンの中で当たり前に使われる社会インフラになりつつある」と、爆発的に普及しているそうだ。
中国事情に詳しいクロスシー(東京・上野)の執行役員、山本達郎さんが語る。
ショートムービーで見たバッグがワンタップで買える!
日本では美味しそうなランチや、キレイな景色を前にすると、写真を撮ってインスタグラムやフェイスブック、ツイッターなどのSNSにアップするのが日常的です。中国ではそこが写真ではなく、ショートムービーに変わってきています。
お花見動画を撮ったり、孫の顔を見るために祖父母が「抖音」を送るように頼んだり。写真よりも動画のほうが情報量をより多く、よりリアルに伝えることが可能ということで、あっという間に幅広い世代に使われるツールとなりました。
最近では、「ショートムービー +(プラス)」という言葉が出てきています。
これは、約4年前に中国政府が掲げた「インターネット +」という政策名になぞらえたもの。もともとは、ビッグデータ、IoT、クラウドコンピューティングなどのインターネット技術を、他の産業と結びつけて発展させる政策でした。
この「ショートムービー +」は、ショートムービーとECサイト、Q&Aサイト、人材サイトなどを掛け合わせることで、新しいビジネスモデルを生み出すという動きです。
「抖音」から大手ECサイトへは、すでにワンタップで移行できるようになっています。たとえばショートムービー内の女性モデルが持っているバッグが気に入ったとします。その画面をタップするだけで、購入画面に切り替わるのです。
2年ほど前にはネット生中継で紹介している商品がワンタップで買える「ライブコマース」が一世を風靡しました。ここに新たに「ショートムービーコマース」が登場。忙しいユーザーにとっては、1~2時間の生中継を見るよりも、15~30秒のよくできた動画を見るほうが効率的ともいえます。
Q&Aサイトにしても、質問や答えが単にテキストだけではなくなってきているのです。
お店探しも動画で決める
さらに、「抖音」は2019年2月、「抖店(ドウディエン)という新サービスをテストリリースしました。飲食店や観光地などが、抖音内に公式ページを作成。ここに位置情報を登録したり、ユーザーによる投稿動画の蓄積をしたりすることができるようになっています。
いま自分がいる場所の近くで、評判のいいレストランや美容サロン、お洒落な雑貨店などがないか探している人が、投稿されたショートムービーを見て、店に足を向けてみる――。こんな仕組みです。
北京市街地から東北に約70キロメートルの観光地「古北水鎮」では、このサービスを先行して導入。今年2月初めの旧正月の期間中、「古北水鎮」に関する動画の再生回数は4億1000万回にも及びました。
1000年以上の歴史を持つ町並みや、万里の長城の雄大な姿をバックにした、さまざまなショートムービーが大きな反響を呼んで、「古北水鎮」の知名度が大いに向上することになりました。
これから普及が期待される5Gとも相まって、「ショートムービー +」のビジネスモデルの一層の増加が予測されます。日本でも中国人観光客向けのインバウンドや越境ECに取り組む際、ショートムービーをいかに活用するかが肝要となっていくでしょう。(山本達郎)