リスクはゼロじゃない! 「意味不明」な主張で国際競争に出遅れるニッポンの未来(小田切尚登)

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なぜ、新幹線は「死亡事故ゼロ」にこだわるのか

   新幹線の技術も、日中で対応が分かれてきたものの一つだ。新幹線は戦後日本を代表する素晴らしい技術の一つである。しかし、今や中国が高速鉄道の世界シェアの3分の2を有しており、圧倒的な立場にある。

   日本でも「新幹線を輸出の柱に」などという掛け声は聞こえるが、実際には国際展開は非常に遅れている。これは予算の制約などと並んで「新幹線は死亡事故ゼロでなければならない」という目標を掲げていることにその一因がある。

   事故を最小限度にとどめる努力は続けなければならないことは言うまでもない。しかし、どんなものでもリスクをゼロにはできず、事故はどうしても起こり得る。

   カネと時間は有限である。「死亡事故ゼロが目標なので、莫大な費用と長い年月がかかりますよ」と言われて、今まさに新幹線が必要な人が納得するだろうか。

   そもそも在来線では死亡事故は起きているのに、新幹線だけは死亡事故をゼロに、と主張するのも意味不明だ。

   新しいものを導入しようとするときは、今まで経験したことのないような色んな問題が起きる。それに対してやみくもに突き進んでいくようなやり方は論外であるが、一方で日本式に「ゼロ・リスク」を目指すというやり方では物事が進まない。

   実験を開始してから半世紀以上経過して未だに実用化のめどが立っていないリニアモーターカーなどその典型だ。

   リスクはゼロにできない。適度にリスクを取りながらリターンの最大化を狙っていくこと。これができるかどうかが、日本の将来を決めるのではないか。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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