「大震災を助けてくれたロシア人に恩返ししたい」
牧野寛さん=写真=がSAMIを起業したきっかけは2011年の東日本大震災。ロシアに留学生として滞在し、多くのロシア人から励ましを受けた。ロシアは中産階級が少なく貧しいのに、なけなしのお金を募金してくれる人が多いことに感激、「将来恩返しをしたい」と思ったのだった。だから「SAMI」では、日本企業だけでなく、ロシアの若者の起業も支援し、日本進出を手伝っている。
こうした若きイノベーターたちと接してきた岩崎さんはこう語る。
「彼らに共通しているのは、とてもピュア(純粋)であること。もちろん、ビジネスでお金持ちになり贅沢をしたいという気持ちもありますが、皆さんよく『何か生きてきた証を残したい』と言います。牧野さんのように『お世話になったロシアのお役に立ちたい』という人もいます。原さんは『タイが好きだから、将来世代に貢献したい』と、ゆくゆくはタイで学校を造ることを夢見ています。また、キムさんは、『インドネシアでは日本の地位が落ちている。日本人でも活躍できることを自分がロールモデルになって示したい』なんて、しびれることを言うんですよ」
と笑った。
「令和」になっても若手イノベーターを多く輩出するようになるにはどうしたらよいか。岩崎さんは2つの点を強調した。一つは、
「日本社会は、失敗すると冷たいですが、若者の失敗を大らかに許すことです。イノベーターは『金の卵』です。起業のほとんどが失敗します。失敗した人に敗北者の烙印を押さず、その経験を買って企業が雇ってほしい。誰もが大谷翔平や大坂なおみ選手になれるわけではないですが、応援することはできます。イノベーターが大谷翔平や大坂なおみになれば、次の世代に彼らに続く者が出るはずです」
もう一つは、イノベーターを政府の審議会メンバーに入れたりして、彼らの声を政策に反映することだという。岩崎さんは、こう説明した。
「古い世代が作ったさまざまな規制が、彼らをつぶしているからです。たとえば、ある若者がお年寄りや障害者に付き添うサービスを始めました。自分では忙しくて実家に帰れない人の代行として、田舎の親を見回ったり、話し相手になったり、病院に連れていったりするのです。ところが、歩けない親をクルマに乗せて病院に連れていくと、『白タク行為』とされて違法になります。仕方なく、バスや鉄道などの公共交通機関を使っています。こうした規制が非常に多くて、若いイノベーターの足を引っ張っているのです」
(福田和郎)