かつて、機関投資家のトレーダーとして働いた経験があるという男性に、トレードについて質問する機会に恵まれた。
今から30年近く前に大学を卒業して東京都内のある証券会社に入社した、その男性は、当時はトレードとは無縁な立場だった。しかし、入社から数年後に運用部門が新設された際に配置転換され、株式の売買で会社の資金を運用することになったという。その男性の勤務先に関する情報を、ここに記すことはできないのが残念だが、その男性への質問とそれに対する答えのいくつかを紹介したい。
取引中に怖くなることはないのか
まず、筆者自身の取引経験に基づく、株式投資の際に抱く感情について質問した。
トレードするとき、筆者は損したトレードではほとんど何も感じない。だが、利益となるトレードをしたときや、「怖くなって途中で決済してしまったが、我慢して保有し続ければ、相当の利益を得ることができたはずのトレード」をしたとき、取引中はたいてい、ただならぬ恐怖を感じている。会社の資金を任されて運用する身としては、どのように感じていたのか――。
男性の答えは、こうだった。
「それはトレーダーによって異なるね。君がそう感じているなら、その感情が経験にもとづいた『勘』となるのだろう。君とは反対に、うまく取引が進んでいるときは何も感じないが、損失を出しそうなときに恐怖を感じるトレーダーもいる」
その男性は若くして結婚したこともあり、筆者とそれほど年齢が変わらない子どもがいるという。そのためか、質問に答える口調はまるで父親として話しかけてくるような雰囲気があった。