外国人労働者の受け入れが拡大されたことで、人手不足に悩んでいる企業は、ホッとひと息ついているかもしれない。
しかし、受け入れ拡大は「そんな簡単にはいかない」と、日本でインド料理店と旅行代理店を経営するインド人のバット ロマシュさんはいう。なにがハードルになっているのか、聞いた。
インド人には「インディアンドリーム」がある
日本人労働者と外国人労働者を、会社が区別なく働かせることができるかどうかが「受け入れ拡大」につながるというバットさんだが、自身は日本以外の国で働くことを考えたことはなかったのか――。
「ありますよ。日本の大学やインターナショナルスクールを卒業すると、海外へ行くというステップがあるんです。ただ、ボクの場合はちょうど18歳の時に父が亡くなり、母を日本で一人にはしておけないと思い、上智大学へ進んだのですが、同期の外国人はほとんど海外、米国へ行っていましたね」
と。さらに、
「インドでは、米国や英国は卒業後、誰もが単純に目指したところなんです。『インディアンドリーム』というものが、米国や英国の大学に行って、そのまま就職するっていうところにあったんですね。インドは人口が多いですし、インフラも整っていませんでした。仕事も少ない。いろいろと問題があったんです。なので、米国や英国に渡り、学び、働き暮らすことに憧れていました」
と、一気に話した。
それもあって、そこに「日本」という選択肢はほぼなかったようだ。
なんといっても、最大のハードルは「日本語」だ。
「そうですね。日本語は大変ですよ。同じ言葉でもニュアンスが違うとか、極端な例では顔色を見ながらでないと意味を取り違えてしまうみたいな。そんな独特なことがあるじゃないですか。英語みたいにストレートじゃないので、その辺が苦労しました」
と、バットさんは語る。
「働きたい国・日本」へ 風向き変わる?
日本独特の習慣や慣例も、高いハードルになる。日本語が達者なバットさんも、「未だにわからないことがありますね」と、苦笑いする。2歳からの日本暮らしだが、「ふだんは母とインドの家庭で過ごしているので、日本の習慣が身についていません。そこも、日本人が外国人の生活習慣がわからないのと同じなんですよ」と、わが身に置き換えて考えてほしいという。
「それでなくても日本は海に囲まれているので、外から人が侵入してくるリスクが小さい。それが目に見えない『壁』になっていることを、もっと自覚すべきだと思います。『海』と『言葉』。この二つだけでも、外国人にとってはかなり高いハードルですよ」
ただ、最近は風向きが少し変わってきた。海外が日本を新たな労働市場として見るようになっているそうだ。
世界中で移民の廃絶運動が起きたり、米国ではトランプ政権がビザの発給制限を強化したり、メキシコとの国境に壁をつくろうとしたり、英国の欧州連合(EU)離脱も移民問題がきっかけのようなものだ。
バットさんによると、米国や英国で外国人に対する「締め付け」が激しくなってきたことで、インドから米国や英国に行く人たちが、ほかの選択肢を探しはじめているという。その一つの渡航先として日本が浮上してきた。「日本、そしてオーストラリア、カナダが米英に次ぐ有力候補だと思いますよ」とみている。
カナダとオーストラリアは英語圏なので、英語ができるインド人にとっては「言葉の壁」がない分、日本よりも行きやすい。だからといって、昔から選択肢がなかったわけではなく、「日本から『日本はどうですか』って、選択肢を提示してくれればいいんです。そうすることで、(インド人が)迎え入れてもらえることがわかればいい。一定数、必ず日本に来たいっていう人がいるわけですから」と、話す。うっすらと、光明が見えてきた。