SDGsは一過性で終わらない
―― たしかにSDGsが会社の中に浸透していけば、一過性のブームのように終わってしまうことは避けられますね。むしろ、どこの会社でも取り組むようになるので、それが当たり前になってしまいます。
笹谷氏「おっしゃるとおりですね。日本のような先進国はもともとSDGs国なんですよ。昔から自分良し、相手良し、世間良しの『三方良し』がありました。この『世間』のところがSDGsの『17の目標』だと思えばいいわけです。もともとマインドがあるんでね。
でも、そう言うと『じゃあ、もともとあるのならいらないじゃないか』と思うかもしれません。でも問題は、日本では徳と善いことは黙ってやれという『陰徳善事』がありまして、わかる人にはわかるとか、お天道様は見ているとか言う。しかし現実には、ここが意外に伝わっていないんですよ。
欧米の企業はそこの伝え方がうまいですね。だから日本の企業はせっかくいいことをやっても伝わらない。伝わらないと、二つの問題があります。まず仲間が、ファンが増えない。そして、仲間が増えないのでイノベーションが起きない。変化が激しい時代に、これは大きなダメージで、そのために事業が縮小していく。だから、日本は『三方良し』に発信力さえつければいいと思っています。それが企業のブランディングにつながるはずです」
―― 政府はTOKYO2020を、「SDGs五輪」とうたっています。
笹谷氏「SDGsはみんなで共同して、連携するプラットフォームであることが1点。価値を創造し、そのことを学んで発信力がつくことが2点目。3点目は共創力で、非常に重要な活動です。
それゆえ、世界中でやるべき。しかし『17の目標』のすべてに取り組む必要はありません。自分の得意なところだけでもいいんです。やり方は自由なので、そこは『規定演技』としてこなしてください。
日本企業の現状は、もうそろそろ規定演技も終わって、次は自由演技の時間ですよ、と。SDGsを使って自分の企業はどのように未来を描くのか、どのように社員にモチベーションを高めるのか、のびのびと自由に演技して世界に打って出るという意味で、自由演技時代にもう間もなく入ります。演技を見せる場もあります。ここの見せどころが、東京五輪・パラリンピックなのです。
開幕まで、もう500日になりました。一刻も早く、日本人は頭をSDGsにしていかないと間に合いませんので、私はいろんなところで『一刻も早くやりましょう』と伝えて回っています。最近は賛同者が増えてきています。日本人は学びはじめると早いですよ」
(おわり)
(会社ウォッチ編集部)
プロフィール
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ)
CSR/SDGコンサルタント、社会情報大学院大学 客員教授
1976年東大法卒。77年に農林水産省入省。2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て、08年に退官。伊藤園入社。10〜14年取締役、14〜18年常務執行役員。18年5月から伊藤園顧問。19年4月30日、退任。
19年4月から、社会情報大学院大学客員教授。
31年間の行政経験と10年のビジネス経験を活かし、企業の社会的責任、地方創生などのテーマを考える。特に企業ブランディングと社員士気の向上を通じて企業価値を高めるための理論と実践について、アドバイザー、コンサルタント、講演などを幅広くこなす。