第1回のテーマは「防災のデザイン」
12年の第1回、13年の第2回の講座ではともに東日本大震災をうけて「防災のデザイン」をテーマにしたが、それは可士和さんが開拓を続けるデザイン戦略にとっても「未踏の領域」。震災当時は、物資が緊急に必要とされていたものだが「自分のスキルがダイレクトに役立つ場面をなかなか見つけることができなかった」という経験から選んだものだ。
「どの災害でもそうだが、それが現実に起こるまで、人の意識にはのぼりにくい。だとしたら、災害の前段階にある人々の意識をデザインし、被害を最小限にすることはできないか、そんな気持ちで『防災』をテーマに選んだ」と可士和さん。
2014年の第3回から18年の第7回までのテーマは順に「オリンピック・パラリンピックのデザイン」「キャンパスビルドのデザイン」「強靭健康社会のデザイン」「本当の平和のデザイン」「無二の私の幸福のデザイン」―。毎年、可士和さん、村井教授を含めた教員チームが集中的なブレインストームを経て設定しているという。テーマを見ただけでは何をどうすればいいのか見当がつきかねるだけに、プレゼンの実例に接するソリューションは新鮮だ。
可士和さんは、わたしたちは今、100年に1度くらいの大きな変化の中を生きているという。その中心にあるのは「インターネット革命」であり、その登場を境に「それまでとはまったく違うチャンネルが開いて、向こう側に新しい世界が出現した」と述べる。インターネットは、コミュニケーションのあり方を劇的に変え、デザインが大きく関与できる余地が生まれた。その推進力になったのは「デザイン」をコミュニケーションに応用したことだった。
インターネット時代はさらに進んでスマホが主役。コミュニケーションは多彩なSNSが役割を増している。「いいね」をもらうにも、デザインがモノをいう。本書には、デザインに役立つ新しい「視点」を見つけるためのヒントが散りばめられている。
『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』
佐藤可士和
集英社
税別780円