ふるさと納税制度が、再び大きく揺れている。
福岡県直方市では、ふるさと納税の返礼品である「Apple Watch(アップル・ウオッチ)」や「バルミューダ製トースター」を用意した。この返礼品が評判となり、2018年12月に約8000件のふるさと納税の申し込みがあった。しかし、返礼品が期日までに納税者に届けられたのは1000件にも満たなかった。
総務省の判断は「後出しジャンケン」
「市役所が詐欺行為を働いていいのか」――。直方市役所の窓口に、納税者からはこんな苦情が殺到した。市側は商品の発送ができなかったことから、独自に返礼品を商品券に切り替えて納税者への発送を行ったが、その対応も市が独断で判断したものだったため、「火に油を注ぐ」結果となり、さらなる批判を呼ぶことになった。
そのうえ、直方市が返礼品とした「アップル・ウオッチ」などの発送業務を請け負ったのは、佐賀県の業者だった。
一方、4月11日には大阪府泉佐野市の八島弘之副市長が、6月からのふるさと納税制度の指定制度に対して、総務省を強烈に批判した。
八島副市長は、ふるさと納税制度の指定にあたり、総務省が2018年11月以降の返礼品などの状況を判断材料にしたことについて、「法施行前に遡る恣意的な判断は、法治国家が取るべき手法ではない」と批判。「法施行前の取り組みを踏まえた判断は、後出しジャンケン。総務省が権力を乱用しないことを願う」と述べた。
そもそも、「ふるさと納税」は2008年度の税制改正で、都道府県・市区町村に対する寄附金税制の見直しにより創設された。2000円を超える寄付金について、所得税および住民税から全額控除ができる。当初は、控除を受けるためには、寄付を行った翌年に確定申告を行う必要があったが、2015年度の税制改正でふるさと納税ワンストップ特例制度が設けられ、特例の適用を受けると確定申告が不要となった。
「ふるさと納税」は、自分の生まれ故郷だけではなく、応援したい自治体にも寄付が行える。それゆえ寄付金を求めて各自治体が返礼品を試行錯誤し、「過度な返礼品競争」が起こった。
こうした過度な返礼品に対しては、多くの批判的な声が上がったことで、総務省は2015年4月に、「換金性の高いプリペイドカードなどや高額または寄附額に対して返礼割合の高い返礼品を送付しないこと」を、自治体に求めた。
ふるさと納税に頼った行政サービスでいいの?
それでも過度な返礼品競争は収まらなかったことから、総務省は(1)返礼品の返礼割合を納税額の3割以下とすること(2)返礼品を地場産品とすること―― を満たす自治体を、ふるさと納税の特例控除が受けられる対象に指定することを決め、2019年6月1日以降のふるさと納税による寄付金に適用することにした。
つまり、前述の福岡県直方市の例は、返礼割合が納税額の3割以上で、地場産品ではない返礼品を送ることができる新制度スタート前の駆け込みだったわけだ。直方市に限らず、駆け込み返礼品を用意している自治体は多い。また泉佐野市の八島副市長と同様に、新制度を批判する自治体も多い。
返礼品を地場産品としたものの、地場産品に魅力的なものがない場合、
「ふるさと納税が集まらなくなる」
「魅力的な地場産品がある自治体と、ない自治体では競争条件に不公平が生まれる」
といった自治体関係者の声は多い。
「ふるさと納税額が減ることで、行政サービスが低下する可能性がある」
と指摘する声もある。
2017年度のふるさと納税額は3653億円で、2018年度にふるさと納税で控除された税金額は2448億円となっている。
確かに、ふるさと納税によって自治体予算が大幅に増加し、それが地域の行政サービスの原資となっている自治体が存在している。これらの自治体にとっては、ふるさと納税の新制度によって寄付金が減少することは死活問題になるかもしれない。
しかし、ふるさと納税に頼った行政サービスのあり方は、不自然で不安定なものであることに変わりはない。地場産品に偏らずにふるさと納税制度を活かす制度、ふるさと納税によって集まった寄付金を分配する制度といった「新たなふるさと納税」の考え方を検討するべきではないか。(鷲尾香一)