東京オリンピック・パラリンピックの観戦チケットの抽選申し込みが間もなく始まるが、多くの人がさまざま競技を見て楽しむのはテレビ(あるいはインターネット)を通してのことになろう。
テクノロジーの進化で現代の映像を通じたスポーツ観戦は、現場で立ち会うのとは別の臨場感を味わえるようになった。スポーツは筋書きのないドラマといわれるが、中継で独自の臨場感を実現できるようになったのは、機器や技術の役割と同時に、そのビジネスに携わる人たちが、存在しない筋書きを予想して周到な準備を重ねたうえで臨んでいるからという。
「準備せよ。スポーツ中継のフィロソフィー」(田中晃/WOWOWスポーツ塾編)文藝春秋
「スポーツはドラマ」
『準備せよ。スポーツ中継のフィロソフィー』(文藝春秋)は、日本テレビやスカパー!(BS、CSの有料多チャンネル放送)で長年スポーツ中継に携わったWOWOW(BS有料放送局)の田中晃社長が、その経験などをもとに、制作の舞台裏や準備重視の「フィロソフィー」を明かしたもの。フィロソフィーは、直訳では「哲学」となるが、ここでは業務にあたっての行動原則とか理念などとなろうか。それは、なによりも「準備」ということだ。
大学で演劇を専攻した田中さんは、ドラマ制作を志望して日本テレビに入社したが「意に反して」運動部に配属された。先輩から「スポーツはドラマだよ」と言われ、その通りと思うようになってそのまま過ごす。そして「あらゆる国内大会・国際大会のスポーツ中継を経験してきた」ものだ。
日本テレビのスポーツ中継といえば、プロ野球巨人の試合と並んで正月の「箱根駅伝」が知られる。田中さんはもちろん両方とも手がけてきたキャリアを持つが、フィロソフィーは最初から持ち合わせていたわけではなく、駅伝のディレクターとして悟りを開き、巨人戦の中継や陸上の国際大会で生かしてきた。