【寄稿 令和の時代へ】元号は商標登録できない!? ネーミングは「千三つ」の難しさ(前編)

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   2019年4月1日、新元号が「令和」と発表された。おめでたいムードのなか、さっそく社名に「令和」を冠した企業が登場。企業情報の東京商工リサーチによると、全国20の都道府県に30社(4月10日現在、18社の社名変更を含む)が登記を済ませた。

   その中の1社で、総合建設業「令和建設」(旧・松丸工業。茨城県守谷市)の由良宣明社長は「さらなる成長を目指し、心機一転にはいいタイミング。社是とする『照・和・心』の『和』の文字が『令和』に含まれていることも気に入っている」と、その理由を説明している。

   じつは「平成」でも同じようなことが起こり、東京商工リサーチに登録されているだけでも、全国に49社もの「平成建設」がある。

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商標登録の微妙な境目

   「令和」の前の元号「平成」は、「地平天成」(書経)、「内平外成」(史記)から選ばれ、昭和の激動から平安を求める落ち着いた世を希望する元号とされた。そのため、平成にあやかって、次々に「平成」名の企業登記が申告された。

   しかし、登記は可能であるが、元号をつけた商標登録には厳しい規制がかかり出した。

   以前は、商標法3条1項3号(商標登録の要件)に元号も準じていたが、乱用を避けるために、平成30(2018)年6月、特許庁から「元号に関する商標の取扱いについて」が通達された。

   その要点は「元号として認識されるにすぎない商標は、識別力がないために、商標登録を受けることができません。(中略)改元後、「平成」が旧元号となった場合も同様で、単に旧元号として認識されるにすぎないため、商標登録を受けることは出来ません」と、今年の改元を見越して、一本クギが刺された。

   光内外特許事務所の中谷光夫所長によると、「元号プラス業種名の商標登録は、元号が一般名であるから、業種名が十分識別性のあるものでないと商標登録は不可である」と語る。たとえば「平成菓子」は、「平成」と「菓子」が共に一般名として解釈され、「登録は不可である」という。

   しかし、過去にも「明治ホールディングス」や「大正製薬」など、社会的にも十分な価値がある場合などは登録されている。その境目は微妙である。

安易に「令和」にあやかるようだと後が色あせる

   「かもメール」や「ゆうメール」、後楽園の「ビッグエッグ」など、今では親しまれているネーミングを多数手がけてきた創造開発研究所の高橋誠所長は、

「ネーミングを簡単に作ろうとしている企業が多いが、そう簡単にできるものではない。安易に作ると必ず反対意見が出るものだ。であるから各方面、各視点から考え尽くす必要がある。最低でも数百の案を出し、そこから詰めていく作業がある。ビッグエッグの場合も1000近い案から収束されたものだ。だから、元号が変わったからといって、あやかるように平成名を付けても浅慮であることが露見する。十分に差別化、識別化を計る努力を期待する」

と語る。

   たとえば「SONY」であるが、前身の東京通信工業から改名した時は、株主はじめ多くの人たちから反対があったそうだ。

   元号でも同じで、事前に漏れると叩かれる可能性がある。まず、ブランド価値を十分に上げる。つまり、商品力、品質、事業性、社会貢献度などを強化し、その時代をけん引するという誇りを持ち、かつ元号を付けたブランド名候補を数百出したうえで収束した言葉を選び、高い理念に基づいた識別力を加味して商標登録に挑むという姿勢が望まれる。

   その留意点は、元号にあやかるのではなく、元号と業種の相乗効果を留意することである。たとえば「帝京平成大学」の場合、前身は帝京技術科学大学であった。昭和の高度成長時代が技術優先時代であったのに対し、平成は多様化された価値の実践時代であると察知し、建学の精神である「実学の精神」との相乗効果を意図して「帝京平成大学」に改名したのである。

   この大学が「平成」をけん引するがごとき使命感が、商標登録時には現れていたのではないかと考える。このように元号によって自社が引き立つのではなく、自社が元号を引き立てるという相乗効果を意識して、識別力を引き出し、元号名の商標規制に挑んではいかがかと思う。(田村新吾)


プロフィール

田村 新吾(たむら・しんご)

(株)ワンダーワークス代表取締役、日本創造学会理事長
早稲田大学理工学部卒業後、ソニーに入社、音響機器開発、CD--ROM開発、二足歩行ロボット開発に従事。パソコン系事業部長、社内横断型企画マンの育成。その後、北海道大学、慶應義塾大学、早稲田大学の講師、企業顧問約30社を歴任。
著書に「二宮尊徳と創造経営」(カナリヤコミュニケーションズ)、「実践的MOTのススメ」(慶應義塾大学出版会)がある。

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