安倍晋三首相の側近、萩生田光一幹事長代行が消費増税見送り、衆院解散で信を問う可能性に言及し、話題となっています。
発言は各方面から反発を呼び、麻生太郎財務大臣や自民党の二階俊博幹事長は不快感を表明。公明党の山口那津男代表は「論外」。経済界も反発しています。
安倍首相には「怪文書レポート」の「前科」がある
萩生田幹事長代行の発言は、何もないところに急に出てきたわけではないでしょう。いわゆる「観測気球」であり、おそらくは安倍首相の「意向」があるはずで、だからこそ政界も揺れました。
ただ、安倍首相は常々「リーマンショック級のことがなければ消費増税を実施する」と発言しているので、相当のことがないと消費増税を撤回できないはずです。
しかし安倍首相も、2016年の伊勢志摩サミットで「リーマンショックが迫っている」という怪文書のようなレポートを各国指導者に出して、それを理由に消費増税を延期した「前科」があります。
今回もG20大阪サミットが迫っていますが、その際に同様な「怪文書」を出すのではないかとの観測もあります。
アベノミクスで国内景気は多少持ち直しましたが、多くの国民は景気回復を実感できないのは事実です。
景気の実態は強くありません。消費増税があれば、やはり景気は落ち込むでしょうし、増税撤回となれば「歓迎」されるでしょう。増税撤回で、衆参同時選挙というシナリオは十分ありえます。
主流派の経済学者が財政赤字に寛容になった
こうした状況のなか、ここに来て思わぬところから援軍が来ています。MMT(現代金融理論)という新しい学説が出てきて、米国の左派の支持を得ていることは最近知られはじめていますが、これは流石に危険な学説であり、MMTを本当に支持する人はほとんどいません。
ところが、MMTに引っ張られた面もあるのでしょうか。主流派の経済学者がかなり財政赤字に対して寛容になってきています。
この3月に出た、サマーズ元米財務長官とLondon School of Economics(LSE)のレィチェル教授の共同論文(On Falling Neutral Real Rates, Fiscal Policy, and the Risk of Secular Stagnation.)では、サマーズ教授(元米財務長官)の持論である長期停滞論を実証分析。先進国の低金利は一時的なものではなく、今後50年以上続くと見込んでいます。その主因が、民間の投資不足にあるので、「マクロ経済のバランスを保つには一定の財政赤字が必要」と、結論づけています。
消費増税撤回、衆参同時選挙が可能なワケ
トランプ大統領の大規模な財政支出を批判したサマーズ氏がこのような結論に至ったというのは興味深いのですが、日本のように実質マイナス金利が続く世界では財政赤字は心配する必要はないのです。
つまり、「名目成長率>国債金利」であれば、財政赤字は発散することなく、次第に改善します。
2016年に日本銀行が採用したYCC(イールドカーブコントロール)はすごい政策で、政府はゼロ金利でファイナンスできます。日本の名目成長率は現状1.5%程度あるので、このままの状態が続くと次第に財政赤字は改善され、数年後に日本はプライマリーバランスを回復します。
要するに、増税する必要はないのです。問題は現在の日本の幸運である「名目成長率>国債金利」がいつまで続けることができるのかという点ですが、すでに3年続いています。
サマーズ氏のようなバリバリの主流派経済学者の結論として、一定の財政赤字が必要と結論されると、首相周辺も動くでしょう。個人的にも、消費増税は撤回されて、衆参同時選挙というシナリオが濃厚と思います。
では、消費増税が撤回されたらどうなるのでしょうか。日本の景気には間違いなく好影響です。財政赤字が増えるので、金利マーケットは若干反応するかもしれませんが、金利上昇を待ち望んでいる銀行のJGB(日本国債)買いで、あっという間にゼロ金利に戻るでしょう。
為替レートへの影響ですが、現状でも財政ファイナンスという状況です。普通であれば、円安になるのですが、さまざまなマクロ要因から動かなくなっています。ただ、消費税増税が撤回され、日銀のJGB(日本国債)購入が増えると、日本が財政ファイナンスしているという状況がはっきりするので、円安に進み安くなるはずです。
一方、予定どおり消費増税となれば、やはり景気を冷やすので、株価の下落を通じて円高要因となるでしょう。(志摩力男)