株の売買をするとき、短期トレードをすべきだろうか、それとも中長期投資をすべきだろうか――。9時から17時まで働いているビジネスパーソンなら、市場が開いている最中に株価を見ることはできないため、中長期投資が現実的な選択だろう。
ただし、FX(外国為替証拠金取引)のような24時間相場が動いている金融商品であれば、短期トレードも選択肢に入ってくる。
株価情報が「電報」だけでも勝てる?
自伝を執筆している米国の大物投資家に、マーティン・シュワルツ氏とニコラス・ダーバス氏の二人がいる。シュワルツ氏は、短期トレードのプロ。一方のダーバス氏は、中長期の投資家である。
好対照ともいえる、二人の取引スタイルや性格、取引中に感じている気持ちなどを比べてみた。
シュワルツ氏は、自身の著作「ピット・ブル」(パンローリング刊)で、「私は一日に14時間は働いている」と記している。彼のモットーは勤勉である。「ほかのトレーダーよりも入念に準備して相場に臨むから、勝ち続けることができる」という信念があるようだ。
一方、ダーバス氏はシュワルツ氏のようなフルタイムのトレーダーではなく、世界中で公演するペアダンサーだった。いわゆる「兼業投資家」である。彼が投資を始めた1950年代、仕事のためアメリカを離れて世界中を旅しているあいだは、証券会社からの「電報」でしか株価を知るすべはなかった。
そんな中でも、4万ドルを50万ドルまで増やすことができた。
ところが、海外公演から帰ってきたとき、わずかな期間で10万ドルも失ってしまった。原因は、他の投資家や証券会社の「うわさ話」に耳を貸してしまったことだったという。そのことに気が付いた彼はニューヨークを離れ、世界公演中、初めて相場で大成功したことで思い入れのあるパリへ旅立った。その地で、かつてのように証券会社の「電報」を頼りに売買することで、調子を取り戻した。
シュワルツ氏は「誰よりも相場を研究することで」成功したトレーダー。一方のダーバス氏は「できる限り相場から離れることで」成功した投資家だった。
損切りが苦手でも勝てる?
フルタイムのトレーダーであるシュワルツ氏は、損切りの苦手なトレーダーだった、と語っている。
自分の間違いを認めたくないため、損が出るとカッとなってしまい、損切りができなくなることがあるようだ。専業トレーダーとして独立した後も、迅速な損切りができずに痛手を被ったトレードがあったと記している。
それでも、シュワルツ氏の取引は、勝率が7割から8割にのぼる。ポジションを保有する時間をなるべく短くして、できるだけ高勝率を維持していたようだ。
そのためか、うまく行くトレードの場合、不安を感じるようなことはないらしい。もし不安を感じるようなら、それは迅速な損切りを求められる場面ということだ。
一方、ダーバス氏の著作「私は株で200万ドル儲けた」(パンローリング刊)によれば、彼はとにかく怖がりで、損切りは徹底しているものの、利益を伸ばすことができずに薄利で決済してしまうことが多かったと語っている。
その取引は、勝率はよくて5割だったという。つまり、2回に1回以上も判断を間違えている。だが、「損小利大」という投資のことわざにあるように、損切りを小さくして、利益となっている株をできるだけ、伸ばすことで利益を上げていた。
ダーバス氏は「大きな利益となるトレードほど、不安は大きくなる」と語っている。早く利益を確定させたいと思うような局面でも、グッとこらえるのが、成功の秘訣だったようだ。
「損切りは素早く、利益は伸ばせ」という投資の格言がある。シュワルツ氏は損切りが苦手、ダーバスは利益を伸ばすことが苦手だった。両者ともに共通するのは、自身の弱点を克服して、初めて成功できた点だ。
どちらの偉大な投資家が、自分の性格に近いと感じるだろうか?
今後の投資活動の一助になれば幸いである。(ブラックスワン)