新年度が始まった4月から、あるいは新元号「令和」が始まる5月から、今度こそ英語をモノにしようと取り組みを始めた人、計画している人も多いに違いない。書店にはそうした読者層をターゲットに「やり直し......」や「○○歳から始める......」とうたう英語の本が少なくない。
「英語の歴史から考える 英文法の『なぜ』」(朝尾幸次郎著)大修館書店
「英語を習ってから何度もつまずいた」
英語関連の新刊を特集した「売れ筋」ランキングでは、やり直しや速成を惹句にしたタイトルやポップな表紙のものが並んでいるが、この稿で注目するのは、その中で地味さで異彩を放つ「英語の歴史から考える 英文法の『なぜ』」。読者レビューの評価は、数少ない「満点」の一冊で、ランキング上位をキープしている。
学校で英語に接して嫌いになるのも、やり直しで取り組んでなかなか続かないのも、たいていのケースは文法がカベになってのこと。アメリカやイギリスなどに子どものころから長く住み、英語の回路が頭のなかにできあがってしまうならともかく、日本語を媒介に外国語を習得しようとするなら、そのルール、つまり文法が分からなければスキルを積み上げられない。関係代名詞や現在完了、仮定法などでつまずいて、そこで立ち止まってしまうのだ。
本書の筆者、朝尾幸次郎さんは東京外国語大学英米語学科を卒業後、米デンバー大学大学院、東京外大大学院で修士課程を修了し、立命館大学で教授を務める英語の専門家だが「中学で英語を習ってから何度もつまずいた」という。それがバネになって英語研究への道へすすみ、本書では英語の成り立ちにまでさかのぼり、つまずきの原因となった数々の「なぜ」を解き明かしたのだ
「a coffee」「a water」もあり
タイトルをみると学術書のようでもあるが、内容は映画や小説作品などから具体例を引用し、その説明も丁寧で分かりやすい。タイトルにあるように、5世紀半ばにゲルマンの「アングル」や「サクソン」といった部族が英ブリテン島に侵入して始まる「英語の歴史」から説き起こされる。その辺りは、読者によっては腰が引けるかもしれないが、歴史が分かれば理解も進もうというものだ。
英語学習のうえでつまずきになる文法項目は少なくないが、その一つに「冠詞」があげられる。不定冠詞の「a、an」定冠詞の「the」だ。不定冠詞の「a、an」は歴史的には、その元は「one」だということをご存知の人は多いはず。学校では「数えられる名詞」につくなどと教えられるが、実用の場面では「数えられない名詞」とともに用いられることを知り、ラビリンスに入り込んでしまう。「a coffee」「a water」と聞き、頭を抱えてしまうのだ。本書にある、小説からこれらが使われている箇所を引用しての説明を読み頭痛はなくなった。
学校では「an」は「母音で始まる単語の前に使う」と教えられ「a」が原則で「an」は例外という印象だが、じつは歴史的には「an」のほうが由緒正しい不定冠詞という。
定冠詞「the」についても、その歴史、使われる場面によっての意味、同じ単語でもたとえば「the Yankees」と無冠詞の「Yankees」の場合があるが、その意味がまったく異なることを教えてくれる。同じチームに、田中将大投手のほか、イチロー選手、黒田博樹投手と3人が在籍した当時の記事をわざわざわざ引用しているのは演出が効いている。
「the」については学校では、前出の名詞に付けて「その」と指示する意味などと教えられるが、本書では、実用的にはさまざま意味を表すことに使われていることがわかるが、それを実際に自ら使えるかとなると難しいかもしれない。
不定冠詞や定冠詞のほか、もちろん、関係代名詞や現在完了、仮定法、前置詞、助動詞などについても詳しく述べられている。「やり直し...」や「○○歳から始める...」とうたう英語の本の前に読めば、やり直しの学習を効果的に進められそうだ。
朝尾幸次郎著
大修館書店
税別1800円