「社史」を作って、家族に読ませる
社労士のHさんが、自身の経験から興味深い話をしてくれました。
「父は10人規模の小さな会社の経営者でした。私は弟と二人兄弟。父は仕事の話を息子たちにしない、後を継げなどとは絶対に言わないタイプだったので、家業は父の代で終わらせるつもりなのだろうと、私は社労士に弟は大企業の社員になりました。ところが父が入院することがあって、番頭さん役の古い社員から相談があったのです。『このまま社長が復帰できなかったら会社は終わり、社員は路頭に迷う』と。そんなことから親父を交えて兄弟であれこれ相談して、結論として弟が後継で入って私も役員として手伝うことになりました」
Hさん兄弟が稼業継承を決断したキッカケの話に、血縁後継づくりのヒントがありました。
「じつは親父は密かに手書きの社史を作っていまして、それを読むとうちの会社は社会的存在意義もあって、大変やりがいのある会社だとわかったのです。僕ら兄弟は全然知らない事実でした。
クライアント先でも、後継となるべき息子や娘たちが、家業の真実をよく知らずに後を継がないと安易に決めているケースはじつに多いのです。そこで私はいずれ後継問題にぶち当たるであろう取引先経営者には、簡易版社史を作って家族に読ませましょうと進言して制作を手伝っています。社史というのは周年行事で作って読まれないものというイメージが強いですが、本当は事業承継にものすごく役立つツールだと思うのです。社史の役割の見直しが、血縁での事業承継促進の手助けになると信じてそんな活動を続けています」
中小企業オーナー、なかでも創業者の社長は、プライドが高くワンマン、頑固などの要因から、自身が作ってきた事業の歴史について、家族には意外に無口で、そのことが本来の後継者を家業から遠ざけていることは確かにありそうです。
血縁後継づくりには、まず家族に自社のことをよくよく理解させることが一番。社史という、一般的には陰の存在と思われがちなツールがじつは血縁後継づくりに役立つかもしれない。そんなHさんの経験談は、目からウロコの思いで聞かせていただきました。(大関暁夫)