組織改革で悩んだコンサルタント...... 自ら起業「最高の組織」をつくる【flier】

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   本の要約サービスを手がける「flier(フライヤー)」(東京都千代田区)の代表取締役CEO(最高経営責任者)、大賀康史(おおが・やすし)さんは前職が経営コンサルタントで、突然、起業家に転身した。

   同僚ら3人で起業したのが6年前。立ち上げ1年目は手探りが続き、一時は、メンバーが離れ、資金がなくなるどん底状態にもなったが、テレビ番組で取り上げられる「奇跡」が起き会員数が急増。さらに、投資家の支援を得ることも相まって軌道に乗った。業容拡大、成長の過程で、電子書籍取次事業者最大手メディアドゥホールディングスの一員となり、弾みをつけた。大賀さんに、会社や組織論について聞いた。

  • インタビューに答えるフライヤーの大賀康史代表取締役CEO
    インタビューに答えるフライヤーの大賀康史代表取締役CEO
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コンサルタントから、わずか1週間で起業の道へ

   創業して2年ほどしてから、ようやく自分を取り戻し落ち着いてきた。そのころから、組織の利益を優先する既存の組織論に違和感を持つようになり、個々のメンバーが最大限、力を発揮できる理想の組織を追い求めてきた。

   そしてこのほど、自らの組織論を論じた初の単著「最高の組織」(自由国民社)を上梓。フライヤーの事業ともども、デジタル時代の先端をいく発想や考え方が評判になっている。

   本の要約サービスという事業を思いついたのは、コンサルタントとしての経験から。仕事の性質上、勤務時間は長くなりがち。終業が日にちをまたぐこともしばしばだった。

   勤務先のコンサルティングファームでは、業務で超多忙にもかかわらず、経済紙誌ほか話題の書籍は全てカバーすることが当たり前といわれる。確かに仕事のためにも読書は必要だ。

   だが、時間が足りない。同僚らと話すうちに、こんなアイデアに思い至る。現代のテクノロジーを利用して、本の内容が手軽に分かるツールがあればビジネスパーソンに役に立つのではないか――。

   こうしたアイデアを思い付いた週の週末に、起業について上司に相談。すると翌週の月曜日に会社側に呼び出され、次の日の火曜日が最終出社日だと言い渡された。火曜日までコンサルタントだったものが翌週の水曜日には起業家への道を走ることになるという、思いもかけない突然の転身だ。

   アイデアを着想する以前は転職も起業もするつもりは全くなかったという大賀さん。偶然に乗りかかった船が出港をはじめ、そこで背中を押されて飛び乗ってしまったというところか。

難航した出版社交渉、資金もショート、その中で起こった「奇跡」

   大賀さんは大学、大学院で機械工学を専攻していたが、インターネットやスマートフォンを使ったツールの開発は初めてで苦労する。

   加えて、要約サービスのためにはクリアすることが欠かせない、出版社との許諾交渉が、うまくいかない。3カ月ほどは相手にすらされない日々だった。

   双方とも、様々な人の支援を得て、やっとのことでサービス開始にこぎつけると、その投資家相手のプレゼンテーションのコンペで軒並み入賞を果たすなどし、滑り出しは好調だった。

   が、現実はそう甘くはない。その後の資金調達は難航、その間にサービスも停滞した。先行きに暗雲がかかり、4人いた創業メンバーのうち2人が離れてしまった。

   暗転した舞台に残された大賀さんらに、大賀さんがいうところの「奇跡」が起きる。テレビの経済情報番組で要約サービスの事業が取り上げられ、続いて投資家らから資金の申し出ももたらされたのだ。出版社との許諾交渉も、理解を示してくれた1社を足掛かりに徐々にうまくいくようになっていた。

   「いまは、月次で40社以上の出版社と定例会を行って新刊の情報が入る。不定期で連絡を取り合っている出版社を含めると170社を超える。提供しているサービスは、読者の知りたいことにフォーカスした、要約形式での本の内容紹介。会員数が増えるにつれて、出版社の販促としてもご理解いただけるようになった」と大賀さん。サービスは無料でも一部は利用できるが「有料の会員比率は高い」という。今後、会員数をさらに伸ばして、2022年には120万人にする目標を掲げている。

   とくにビジネスパーソンへの訴求を重視し、ビジネススクール講師ら専門家で構成する選書委員会で書籍を選定。あがった要約は、出版社、著者らにも確認を求め、その精度に注意を払っている。

   要約は、その本が属す分野の専門家で「ライターとしてもその分野で本が書ける」水準の人に依頼をしているという。

ピラミッド型から「輪を描く組織」に

   大賀さんは、コンサルタントや起業家、経営者を経験して「実現性のある法則が見いだせた」という組織論を広くしってほしいと考えた。「最高の組織」の冒頭に、フライヤーの無料サービスの1冊として「要約」を掲載している。

   コンサルタントの時代から悩んでいたという組織作り。「クライアント企業の組織改革をしたことがあるが、それは哲学や他の制度との一貫性がないとうまくいかない。だから、単に組織をいじることに個人的には抵抗があった。思想のない小手先の組織改革では、組織文化や生産性の改善につながらないからだ。厳しい企業再生局面などの収益性が最優先になる環境下では、雇用が犠牲にならざるをえないこともあった。」と振り返る。

   そして、起業家から経営者となり、自ら組織を運営する中で「どうしたら、会社にいるメンバーの個性を生かした会社になれるのかを考え続けていた」。

   「既存の組織というのはほぼピラミッド型。組織長の人がやる気がなかったりすると、その存在がボトルネックとなって、それ以下にいる人たちは機能しない。組織長に就く人も、有能でない人が一定の割合で存在する。そしてそれらがあらゆる階層で起きている」。コンサルタントとして観察してきた現状分析だ。大賀さんは、こうした「世の中の常識」に抵抗しながら、自ら「よし」と思った組織作りに努める一方、他の経営者らと議論を重ねて「一人ひとりのメンバーがのびのび活躍できる」ための理論を確信した。

   従来と違うのは、縦にのびるピラミッド型ではなく、横に広がる階層のない形態(フラット型)であること。そして「CEOもデザイナーも、各メンバーで役割分担はあるけれど、それぞれが水平でつながって、必要なことを必要な人と話せる『輪を描く組織』であること」だ。

「理想的な組織形態は輪を描いているようなものである。その輪には頂点はなく、輪の構成要素の一人ひとりは、デザイナー、エンジニア、セールス、CEOなどすべてのメンバーだ。誰が前に出ることも後ろに下がることもない。各メンバーの得意なことや好きなことを集めて役割を分担し、その力を総合すると自然に会社が動いているような状態にする」。

   大賀さんは、こうした「進化型組織」が理想の形の一つであり、今後、この組織構造の企業が増えていくとみている。

(松本良一)

「最高の組織」
大賀康史著
自由国民社
税別1500円

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