最近、全社を挙げて従業員の禁煙に取り組む企業が増えてきた。社員の健康被害を防ぐと同時に生産性の向上を図る「健康経営」の一環だが、最初から喫煙者を採用しない企業も登場している。
その一つが、2020年4月新卒入社から「非喫煙者」を採用条件に明記した、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命だ。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、担当者に話を聞いた。
全社をあげた禁煙運動の総仕上げが採用にまで
ひまわり生命経営企画部広報グループの住山舞衣さんは、新卒の採用条件に「非喫煙者」を設けたことについて、こう説明した。
「当社は生命保険ですから、お客様が健康になることを応援する『健康応援企業』です。その社員がタバコを吸って不健康になっては、お客様に対して説得力がありません。そこで、2016年から段階的に社員の禁煙運動に取り組んできました。2020年4月の新卒者を非喫煙者に限ることにしたのは、禁煙サポート運動の、いわば最終段階にあたります」
まず、2016年春から健康保険組合による禁煙治療を促進しはじめた。禁煙外来を受診する社員に治療費を補助。同年8月には、週1回の「禁煙デー」を開始。すでに会社内は分煙になっており、喫煙ルームでしかタバコを吸えなくなっていたが、「禁煙デー」にはそこでの喫煙も禁じた。タバコを吸いたければ、会社から遠く離れた所に行き、こっそり吸うしかない。
翌17年8月には、さらに追い討ちをかけた。東京本社の「喫煙ルーム」を取り壊すなど、全国の営業拠点を全施設終日禁煙にしたのだ。勤務時間中は会社の施設内ではまったく吸えなくなった。これには社有車も含まれるから、営業中の移動の車内でも吸えなくなった。
勤務時間中は出張先でも喫煙はご法度
その間、喫煙者を対象に医療の専門家を招いて、いかにタバコが健康を害するかを教え込むセミナーを実施。禁煙の相談に応じるカウンセリングの窓口も作った。そして、極めつけが2018年10月、全役員と部室長以上の幹部たちに就業時間内での全面的な禁煙を指示したことだった。
住山さんは、こう説明する。
「これは夜のプライベートな時間をのぞいて、勤務時間中はたとえ出張先でも吸ってはいけないということです。こっそり吸う方がいるかもしれませんし、すべてに干渉できるわけではありませんが、マインドの問題として幹部の方々に禁煙の自覚を促しました」
2016年の禁煙プロジェクト開始時は、社員約2700人の20.8%が喫煙者だった。これは厚生労働省の調査(2017年)の全国平均17.7%より高い。これを2020年には、12%以下にするのが目標だが、スモーカーの幹部たちの抵抗はなかったのだろうか。住山さんは語る。
「特に抵抗があったとは聞いていません。社長の大場康弘はもともと吸いませんし、幹部たちから率先して健康経営の姿勢を示そうということですから」
こうなると、全社に広がるのは時間の問題だった。半年後の2019年4月、就業規則上の休憩時間をのぞき、すべての社員が勤務時間中での喫煙が禁じられた。こっそり遠くに行って吸ってもいけないのだ。もちろん、一人ひとりに監視をつけるわけにもいかないが......。と同時に、2020年4月入社の社員の募集要項に「非喫煙者もしくは入社時点で喫煙されない方」という条件が明記されることになったわけだ。
「幹部の段階で、『会社は本気だ』ということがわかっていましたから、特に抵抗や反対はありませんでした」(住山さん)
「お酒の場合は勤務中に飲みませんから」
ところで、企業が従業員に禁煙を指示したり、今回のように採用条件に「非喫煙者」を明記したりすると、必ず起こるのが「タバコを吸うかどうかは個人の自由だ」「喫煙者差別ではないか」という反発だ。そうした抗議はなかったのか。また、現在就職活動中の学生からも疑問の声は上がらなかったのだろうか。
住山さんは、
「SNSなどでそういう議論が起こっているのは承知しております。当社の立場は、嗜好品としてのタバコを否定するものではありません。ただ、タバコが健康に悪い影響を与えているのは事実ですから、健康を応援する会社の姿勢として禁煙を推進することに共感していただける方々に入社してほしいと考えております。会社説明会でそう訴えると、わかっていただいております」
と話す。
実際、会社のホームページに「喫煙者差別ではないか」「アルコールはいいのか」といった批判の声が数件寄せられている。そうした声には一つひとつ答えているそうで、住山さんは、
「アルコールの場合は、勤務時間中に飲むことはありえませんので、と返事をしています」
と笑った。
ちなみに、採用条件に「喫煙しないこと」を掲げている企業はほかに、日新火災海上保険、ロート製薬、スポーツクラブ運営のセントラルスポーツ、テクノロジー人材育成スクールのdiv(ディブ)などがある。
(福田和郎)