高齢者も引き付けられる
「東京という都市は、これから新たな局面を迎える。まず増え続けてきた人口が今後減少し、持続的に発展することが難しくなる。日本ではこれからどこの国も経験したことがない勢いで人口が減少するので、地方の人口が減り、東京に流入する若年層が減る。また、高齢化率が上昇し、社会を支える生産年齢人口の割合が減ってしまう」と著者はみる。国のために必要な東京の持続的発展のためには国の外に目を向けるべきであり、国内で住民の争奪戦をしても限りがあるのだ。
東京圏では鉄道や道路網をめぐるリニューアルやリノベーションはなお盛んだ。ターミナル駅は便利になったと思えば、さらに変身を遂げ、新駅の建設や新タイプの列車の運行が次々に始まっている。
JR東日本では山手線の田町-品川駅間に2020年春、高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)をオープン。東京の中心部と郊外をつなぐ路線を持つ電鉄各社では近年、テクノロジーの進化でロングシートとクロスシート両方での運用が可能になった車両を導入して着席サービスの提供を競っている。いずれも東京が「上がる都市」になる施策といえる。
ただ少子高齢化の進行が、東京の「上がる都市」化に微妙に影響する可能性もある。いわゆる団塊世代の全員が75歳以上の後期高齢者になる2025年、そのジュニア世代が40代、50代を迎えるが、このうち地方から出てきた人たちが介護などで故郷に戻る割合が高まれば、労働力の空洞化も懸念される。
また、逆のことが起きる可能性もある。ジャーナリスト、河合雅司氏のヒット作「未来の年表」(講談社)を引いて、こう説明する。地方で一人暮らしをする団塊世代の高齢者が東京の利便性を求め、あるいは東京圏の子供たちを頼って同居や近居をするようになるかもしれない、と。
著者は「東京圏に団塊ジュニア世代が多く集まっている現状から考えると、そのような例が増えていても不思議ではない」と述べている。
『東京 上がる街・下がる街 ― 鉄道・道路から読み解く巨大都市の未来』
川辺謙一著
草思社
税別1500円