少子高齢化による人口減少問題はTOKYOでも現実味を増し、地域によっては小学校や中学校が統廃合されている。日本経済のためにも、東京には持続的発展が求められている。
そのカギを握るのは、世界で最も発達した鉄道網にあるという。
「東京 上がる街・下がる街 ― 鉄道・道路から読み解く巨大都市の未来」(川辺謙一著)草思社
グローバル化で強まった「磁力」をさらに強く
東京圏の鉄道をめぐってはこの数年、複数の路線を直結して利便性の向上が図られたばかりか、電鉄各社が車両や駅関連施設、0ICカード乗車券のリニューアルやリノベーションを推し進め、さまざまな新サービスも登場している。
「東京 上がる街・下がる街――鉄道・道路から読み解く巨大都市の未来」では、鉄道のほか道路整備を含めて、東京の交通網のこれまでを振り返り、またこれからを展望して「上がる街」と「下がる街」を見てみようとしている。
著者は新幹線や地下鉄、高速道路などに関する著書が多数ある交通技術ライター。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立し高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。
「上がる街」「下がる街」は、そのときどきの鉄道の利便性が変わるだけで入れ替わる。たとえば「武蔵小杉」(神奈川県川崎市)は、以前は企業の事業所が置かれた地域で上がり目はなさそうだったが一転、いまは住宅地として再開発され、タワーマンションが建ち並ぶ。そしてJRの新駅が誕生するなどして「住みたい」ランクの上位にその名前が並び、まだ上昇気配が漂う。
鉄道網が首都圏で細かく整備されてからは「東京にはスラムと呼ばれるような『下がり続ける街』がありそうでない。これも、東京の大きな特徴だ」と著者。「たとえば南千住(東京都荒川区)のように、日雇い労働者が多く安価な宿泊施設が集まる街は存在するが、その近くには再開発によって誕生した超高層マンションが建っており、『下がる』どころか『上がっている』。つまり、どの街も富裕層と貧困層が隣り合って住んでいるので、どちらかいっぽうだけが固まって住んでいる街がありそうでないのだ」
これまでの東京一極集中は、グローバル化で「磁力」を強めた首都圏に地方から人を引き付けたものだが、人口減少により、そうした流入はこれからは期待できない。
東京圏は、依然として「上がる街」と「下がる街」の別はあるが、これまでの磁石効果で、メトロポリタンエリア全体が「上がる街」になる準備はできた。これからは、東京圏が世界の中で「上がる街」として、なおグローバル化をすすめ、人の動きが活発な世界のビジネスセンターとして、また、各国からの流入人口の受け皿としての進化を目指すことになるという。