老いた水道管、水質悪化、料金値上がり...... 水道事業を民営化しても「未来」はない(鷲尾香一)

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   2018年12月6日、改正水道法が成立した。メディアの多くが、今回の水道法の改正を「水道事業の民営化」と報じて、今後の新たな水道事業のあり方に期待を寄せている。

   だが、今回の水道法改正は、さまざまな問題を内包している。

  • 日本の水道事業は危機的な状況にある
    日本の水道事業は危機的な状況にある
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水道料金の格差、兵庫県赤穂市と北海道夕張市でなんと8倍

   確かに、日本の水道事業には着実に危機が迫っている。それは、少子高齢化に端を発した人口減少による水道使用量の減少と、法定耐用年数を超えた水道管の更新費用などの問題によるものだ。

   総務省の「水道財政のあり方に関する研究会」が2018年12月6日に発表した資料によると、自治体の水道事業は、2016年度時点で簡易水道を含めて全国に2033。これらの水道事業の収支の状況は、2016年度において4044億円の黒字だが、128の事業(6.3%)が赤字となっている。この赤字事業のうち、105事業が上水道事業だ。

   これは、人口減少に伴う給水人口の減少が大きく影響している。実際、給水人口という点でいえば、事業全体の約8割が5万人未満の地域であり、経営効率の悪化が目立つ。このため、水道料金の収入は2001年度の2兆5463億円をピークに、減少が続いている。

   料金徴収の対象となった水量及び他会計などから収入のあった水量(有収水量)も、2000年をピークに減少が続き、50年後の需要水量は、2000年度に比べて約4割減少すると予測されている。

   加えて、総務省によると、法定耐用年数を超えて延長利用している水道管の割合は、全国で15%にのぼる。このため、水道利用量の減少と水道管の更新など、設備更新の費用増加により、多くの自治体で水道料金の値上げをせざるを得ない状況に迫られている。

   水道料金は、全国一律ではない。日本水道協会によると、2016年4月1日現在の家庭用20立方メートル当たりの水道料金は、もっとも安い兵庫県赤穂市で853円。もっとも高い北海道夕張市では6841円と、約8倍も違う。

   ちなみに、1か月当たりの全国平均は3215円だ。

新たに導入「コンセッション方式」では民営化はムリ?

   水道料金の「格差」は、水源、水道事業にかかる費用、水道の利用量など、さまざまな要因によるものだが、ただ一つ確実に言えることは、水道料金は間違いなく値上がり傾向にあるということだ。

   さらに、公共事業としての水道サービスは、低下する可能性を秘めている。水道管の更新費用は、水道料金が原資となっているが、水道使用量が減少し収入・収益が減少すれば、当然ながら水道管の更新は難しくなる。

   たとえば、1本の本管から地域100軒に供給されていたとする。過疎化により、この地域が10軒に減った場合、水道管更新のための1軒あたりの負担は10倍になる。もし過疎化がさらに進んで地域世帯が5軒あるいは1軒になった場合、水道管の更新費用を負担することが果たして可能だろうか。1軒ならば、言うまでもなく一挙に100倍の負担がのしかかるのである。

   こうした日本の水道事業の現状と将来の不安に対する打開策として登場したのが、「水道事業の民間運営」だ。その最大のポイントは「コンセッション方式」が導入されたことにある。

   民営化とは、設備、土地を含め事業全体を民間企業に転身させることだが、正確に言えば、「コンセッション方式」は民営化ではない。水道管などの所有権を移転することなく、水道事業の運営のみを民間企業に任せる方式だ。

   「コンセッション方式」を導入すれば、水道事業の運営権を民間企業に売却することが可能になるため、自治体は売却代金により水道事業の赤字などを削減することが可能となる。また、水道管関連の工事コストの削減、あるいは新技術を導入した水道事業の運営などによるコスト削減にも期待がかかっている。

   事実、宮城県は2021年度に、水道事業の運営権を民間事業者に委ねる予定を打ち出している。これにより、20年間で水道事業にかかる経費を最大546億円削減できると試算している。

   しかし、「コンセッション方式」の導入はメリットだけではない。水道事業の経営主体が民間企業になるため、事業計画、施策などに対する決定権は民間事業に移る。当然、民間企業が事業を営む以上、採算、利益が重視される。つまり、それは水道水の安全性低下や水道料金の上昇につながりかねないのだ。

民営化で水道水の需要が回復するわけではない

   フランスでは、パリ市の水道事業が民営化され、1985年から2009年に水道料金は約3倍に跳ね上がった。パリ市は水道料金の決め方が不透明などの理由で、2010年に水道事業を再公営化した。

   南アフリカでは、水道事業を民営化したことで水道料金が急上昇し、水道料金を払えない貧困層1000万人以上が汚染された川の水を飲料水としたことなどにより、コレラが発生した。南アフリカは結局、水道事業を公営に戻した。

   これらはあくまでも例外だ。しかし、水道事業が民間運営になることで、採算性や利益水準によっては、水道料金が上昇する可能性は非常に高いし、水道水の品質や安全性が低下する可能性があることは否定できない。

   今回の水道法では、水道料金を条例で定めた範囲内でしか設定できないようにし、国は水道料を含めた事業計画を審査し、不当に高い料金設定をしていないか検証することになっている。

   だが、水道事業を1度民間企業に委ねてしまえば、採算性や利益を度外視した水道料金での運営を民間運営者に強制するのは難しく、水道料金の値上げを受け入れざる得なくなる。

   また民間運営となれば、採算を重視して水道管の更新などの経費削減に動く可能性もある。米国のアトランタでは、水道を運営する民間企業がコストカットを徹底したために、水道管の破裂や水質悪化が相次いだ。

   問題は、水道事業を民間運営にしたからと言って、水道水の需要が回復するわけではないし、水道管の更新などのコスト問題が解決するわけではないということ。しかし、民間運営による「しわ寄せ」は、確実に消費者に回ってくることになる。

   水道はもっとも重要な生活インフラの一つだ。生活インフラの検討にあたっては、対処療法的な弥縫策ではなく、地方政策や都市計画なども含めた総合的な見直しを行う必要がある。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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