老いた水道管、水質悪化、料金値上がり...... 水道事業を民営化しても「未来」はない(鷲尾香一)

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民営化で水道水の需要が回復するわけではない

   フランスでは、パリ市の水道事業が民営化され、1985年から2009年に水道料金は約3倍に跳ね上がった。パリ市は水道料金の決め方が不透明などの理由で、2010年に水道事業を再公営化した。

   南アフリカでは、水道事業を民営化したことで水道料金が急上昇し、水道料金を払えない貧困層1000万人以上が汚染された川の水を飲料水としたことなどにより、コレラが発生した。南アフリカは結局、水道事業を公営に戻した。

   これらはあくまでも例外だ。しかし、水道事業が民間運営になることで、採算性や利益水準によっては、水道料金が上昇する可能性は非常に高いし、水道水の品質や安全性が低下する可能性があることは否定できない。

   今回の水道法では、水道料金を条例で定めた範囲内でしか設定できないようにし、国は水道料を含めた事業計画を審査し、不当に高い料金設定をしていないか検証することになっている。

   だが、水道事業を1度民間企業に委ねてしまえば、採算性や利益を度外視した水道料金での運営を民間運営者に強制するのは難しく、水道料金の値上げを受け入れざる得なくなる。

   また民間運営となれば、採算を重視して水道管の更新などの経費削減に動く可能性もある。米国のアトランタでは、水道を運営する民間企業がコストカットを徹底したために、水道管の破裂や水質悪化が相次いだ。

   問題は、水道事業を民間運営にしたからと言って、水道水の需要が回復するわけではないし、水道管の更新などのコスト問題が解決するわけではないということ。しかし、民間運営による「しわ寄せ」は、確実に消費者に回ってくることになる。

   水道はもっとも重要な生活インフラの一つだ。生活インフラの検討にあたっては、対処療法的な弥縫策ではなく、地方政策や都市計画なども含めた総合的な見直しを行う必要がある。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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