少し前までは「レンタル」というと、その対象はかなり限定されていたものだが、欧米で広がった「シェアリングエコノミー」が日本でもこの数年でジワリと浸透の度を深め、さまざまなものが安価で借りられようになっている。
それは貸し出し専用のアイテムをレンタルするというのではなく、自分のモノまたは他人のモノを、あるいはまた、その目的のために提供されたモノを「分け合って使う」という、シェアリングの概念が現代社会にマッチして広がった。そのことを目的としたアプリが開発され、拡大の速度を増している。
レンタル市場で主なアイテムである自動車だが、シェアリングエコノミーでは、個人の自動車所有者が、目的地が同じ利用者に相乗りを提供している。自宅の空き部屋などを宿泊場所として利用してもらう「民泊」はすでにおなじみになった。シェアリングには「節約」の側面もあり、2019年10月に予定されている消費増税が刺激になって、広がりがさらに加速し、大きなムーブメントになる可能性もある。それ以上に、新時代のインフラとしての役割に大きな期待が寄せられている。
「シェアライフ 新しい社会の新しい生き方」 石山アンジュ著 (クロスメディア・パブリッシング)
個人主体に軸足を移す
一般社団法人「シェアリングエコノミー協会」事務局長で「内閣官房シェアリングエコノミー伝道師」でもある石山アンジュさんがこのほど上梓した「シェアライフ 新しい社会の新しい生き方」によれば、シェアリングエコノミーは経済社会を構成するが「企業主体」「個人主体」の2つの側面があり、日本はこれまで「どう儲かるか」のアプローチが中心で、どちらかといえば「企業主体」だった。
今後は、環境問題のほか、少子高齢化が進むことなどを考えれば「個人主体」に軸足を移し「持続可能な社会システム」への転換を迫られることになるという。
「人口減少による地方の過疎化、増え続ける若者の社会負担、公助や自助が働かなくなっている......などの問題のなかで、シェアという『個人と個人の助け合いながら支え合って生きていく』共助の仕組みが今、必要ではないでしょうか」と、石山さんは問いかけている。
アプリを利用した「相乗り」や「民泊」の提供、メッセンジャーやデリバリーのパートタイマーの仕事の獲得など、これまではビジネス主体で注目されてきたシェアリングエコノミーだが、さらに進めて、構造が変化している社会のなかで、人と人のつながりを豊かにする、あるいは取り戻すためのインフラになる可能性が本書では強調されている。
米では高齢者と子育て世代マッチングも
たとえば、事故の原因にもなりかねない高齢者の「独居」の問題を緩和するためには、シェアハウスが有効。都心のマンションで一人暮らしをする「独居老人」が増え続け、そのペースが年間3万人にのぼり「つながりを失った末、だれにも看取られずこの世を去る『孤独死』の問題は深刻」と指摘する。
「不安が強まるなか、老後も安心して暮らすために必要なことは、つながりではないでしょうか。困ったときに手を差し伸べてくれる人がいること、生きがいを感じられるコミュニティーが複数あることこそ、一番重要」という。米国では、ルームメートを探しているシニア同士、子育て世代と部屋が余っている自宅に暮らす高齢者との同居をマッチングするサービスも生まれているという。
シェアリングの普及で、日本でも徐々に、企業に属さず、好きな場所で、好きな時間に、好きな仕事に従事することも可能になっている。これまでのところは、専門性の高いスキルを持っている人に限られてはいるが、今後は、そうしたスキルがなくても、自分が所有している場所やモノ、経験や知識をシェアとして提供して収入を得られることが考えられる。収集物の一部や作ったモノを売ることもでき、現役を引退した高齢者にもマルチな収入の道が開かれる。
デジタル時代の個人間の共助の仕組みでもあるシェアリングについては、政府でも積極的に採り入れていく考えで、その動きを本格化させている。石山さんが「内閣官房シェアリングエコノミー伝道師」に就いたのもその表れ。また、経済産業省では「シェアリングエコノミーにおける経済活動の統計調査による把握に関する研究会」を立ち上げ、2018年11月から19年2月までの3か月間に3回の会合を開くなど積極的に活動している。
「シェアライフ 新しい社会の新しい生き方」
石山アンジュ著
クロスメディア・パブリッシング/インプレス
税別1280円