最近、正しい日本語を紹介する書籍が増えています。この背景には、「大人にふさわしい日本語を学びたい」というニーズがあるようです。
スマホで文字を書くことが多くなったせいか、意味不明で非礼な文章が増えたように思います。言葉は生活をするうえでなくてはならないもの。正しい使い方を覚えておきましょう。
「このことわざ、科学的に立証されているんです」(堀田秀吾著)主婦と生活社
「情けは人の為ならず」は科学的に実証されている
「情けは人の為ならず」ということわざを知っていますか。「情けをかけるのはよくない」と解釈されがちですが、真意は真逆。人に親切にしておけば、必ずよい報いがあるという意味です。
ヒューストン大学のラッド博士らの研究によると、他者のためによいことをすると、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌量が増加することが明らかになっています。人のためになるような行動は、具体的であるほど、達成したときの自分自身の幸福度も向上するというものです。
さらに、カリフォルニア大学のリウボミルスキー氏らの研究では、「献血をする」「礼状を書く」「友人の問題を解決する」といった行動が調査され、1週間に5回行うと、最も幸福度が高かったとする結果が明らかにされました。
とくに、1日に集中して行うことが効果的だったようで、本書では「一日一善」の根拠が薄いとされています。
脳は同じ行動に慣れてしまうと純化して、刺激を感じなくなります。刺激を感じるからオキシトシンが分泌されるので、刺激が弱まると分泌も弱くなります。善行を繰り返していくことは、悪いことではありませんが、善行のアップデートが必要かもしれません。
「終わりよければすべてよし」も科学的に正しい
旅行に行った後、思い出について語るのは楽しいものです。ところが、帰路でひどい渋滞に巻き込まれていたり、仲間同士がトラブルになっていたりしたらどうでしょう。最悪の思い出しか出てきません。
Aさんというプロ野球選手がいたとします。新人の頃はミスばっかりでしたが、数年後に成績を残すようになります。そうなれば、新人の頃のミスなんてどうでもよくなります。
これらのエピソードは「終わりよければすべてよし」です。
ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン氏は、「ピーク・エンドの法則」を発表しています。これは、私たちはある過去の経験を、絶頂(ピーク)時にどうだったか。そして、どう終わったか(エンド)によって判断するという実験です。証明方法は、次のようなものでした。
人々を2つのグループに分け、大音量の不快な騒音を聞かせました。Aグループにはずっと同じ騒音を、 Bグループには、ときたまAグループよりひどい音も混じる一定ではない騒音で.最後は少しましな音を聞かせました。すると、Bグループのほうが、Aグループよりも不快さの評価が低かったのです。ひどい音を聞かされた「ピーク」よりも、それほどではなくなった「エンド」という記憶が不快感を和らげたと考えることができます。
人間の記憶は終わりの印象だけが強く残る傾向があります。「終わり」を無理やりにでもよい記憶と結びつければ「幸せ体質」になるのかもしれません。
自分の言葉を持つ
言語学博士の堀田秀吾(明治大学教授)さんは、「ことわざは、私たちの行動や森羅万象を、的を射た形で言い表す、偉大なる先人たちの観察、洞察、知恵、経験、それらを積み上げてきた歴史の集大成である」と、解説します。さらに、科学的根拠という観点から見つめ直すと、また新たな側面が見えてきます。
科学には、民族を超えた普遍性があると考えることができます。多少の違いこそあれ、人間の行動や世の中の現象には共通する部分があるということでしょう。ことわざを「座右の銘」にする人は多いですが、それは自分自身の羅針盤を持つことと同じ意味なのです。
これを機に皆さんも「自分の言葉」をお持ちになってみてはいかがでしょうか。きっと、困ったとき、苦しいときに、リセットして自分を取り戻す力になってくれることでしょう。(尾藤克之)