マリオ・ドラギ氏は、ECB(欧州中央銀行)総裁として傑出した業績を残してきた総裁です。就任早々利下げを敢行。しかもタブーとされてきた量的緩和政策にまで踏み込み、ユーロドルを1ユーロ=1.40ドル前後から1.05ドル前後へと押し下げ、低迷していた欧州経済を立て直しました。
2017年6月には、ドラギ総裁自身、ポルトガル・シントラにおいて「デフレの力はリフレ(インフレ)の力に置き換わった」と、勝利宣言とも言えるスピーチをしました。
不吉な「逆イールド」
しかし、調子がよかったのは2017年まで。2018年初頭から欧州の製造業PMI(購買担当者景気指数)がジリジリ下落しはじめました。当初は原因不明でした。内需はそれほど悪くなかったので、基本的には一時的な軟調と判断され、ECBは予定どおり着々と量的緩和政策を2018年12月に終了したのです。
ところが、先日発表されたドイツ製造業PMIの数字は衝撃的でした。予想を大幅に下回る44.7。2012年の欧州危機以来の数字です。
あまりの数字の悪さに、米国の債券市場3か月物と10年物の金利が11年ぶりに逆転という、いわゆる「逆イールド」のおまけまで付いてきました。「逆イールド」になると、過去の経験則上、1年ないし1年半以内に必ずリセッションがやってきます。不吉です。
私自身の意見としては、今回の「逆イールド」、あまり真剣に考えなくていいのではないかと思っています。過去、逆イールドが発生したとき、米国経済は好調でした。引き締めても、引き締めても景気が強い。政策金利(=短期金利)が上昇し続ける結果「逆イールド」になります。
「逆イールド」になると、政策当局も引き締めを躊躇するので、しばらく様子見となりますが、景気が強い状況が続くので、株も上がるし、ドルも上昇したりします。しかし、強い景気もどこかで終りが来ます。そのとき政策金利が低下し始め、「逆イールド」も終わります。
今回は、実体経済はそれほど悪くないのですが、中国や欧州が悪いので、そのうち米国にも景気後退の波が来るかもしれない。よって先回りして引き締めをやめるという判断を打ち出した結果、長期金利が下がり「逆イールド」となりました。