新元号「令和」が発表され、新年度がスタートした2019年4月1日。多くの会社で入社式が行われ、経営トップがフレッシュな新人にエールを送った。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、大小さまざまな会社の中から、「心にひびく社長の挨拶」を、独断で選んでみた。
「仕事とは人の役立つことをすること」
4月1日といえば桜のシーズン。ソフトバンクグループの孫正義会長はこう切り出した。 「私は4月という季節が大好きです。毎年冬の寒さに耐えて桜の花が咲く。1輪ずつでもきれいですが、群れで咲き誇った時が本当に美しい。皆さん一人ひとりが咲いてもきれいですが、力を合わせ、志を共にして一緒に笑顔で咲いた時には格別な、さらなる喜びがあります」
そのチームワークで咲かせる志とは何か――。
「創業以来一度も変わらない、また変わってはならないこと。それは経営理念の『情報革命で人々を幸せにする』に尽きます」
「働く」とはどういうことなのか。新入社員にかんで含めるように伝える社長が目立った。 サプリメントと化粧品を扱うわかさ生活(京都市) の角谷建耀知(かくたに・けんいち)社長は、日本女子プロ野球機構の創設者としても知られる。女子プロ野球のルーキーを含む30人を前に、こう語った。
「言葉はとても大切です。仕事という文字も『始める事』と書く『始事』をする人もいれば、『死ぬ事』と書く『死事』の人もいます。自分の言葉や行動に責任を持って、相手のためを考えて『始事』をしていきましょう」
リコーの山下良則社長は、「仕事とは人の役に立つことである」と強調したうえで、こう語った。
「私は入社当時から『仕事とは何か』について、よく考えていました。私なりの結論は、仕事とは相手の役に立つことをすることです。仕事には『相手』がいます。この『相手』をはっきりさせないと、仕事から自分自身の満足は得られません。極端に言えば、『相手』が誰かわからない仕事ならやめた方がいい。具体的な『相手』に対して、自分の仕事が届ける価値は何か、そしてその価値をいかに最大化するかを考えると、仕事に創意工夫が生まれるのです」
「人を思いやる感性を持て」と諭したのは凸版印刷の金子眞吾社長だ。
「皆さんに必ず身につけていただきたいことがあります。『豊かで美しい感性を持つこと』です。それこそがトッパングループの最大の武器です。基本的に何もないところから社会や顧客のニーズをつかみ、ゼロからモノを創っていくのが私たちの仕事です。コミュニケーション力が重要になります。そして、その力の原点は、相手の身になって物事を考え、思いを感じ取る『感性』にあります。感性が豊かで美しくあればあるほど、感じ取れる思いや情報量が多くなり、より高い価値を提供することができるのです」
「おもしろきこともなき世をおもしろく」仕事をしよう
丸紅の柿木真澄社長は、自分も社長1年生であることもあって温かく語りかけた。
「私は、社員みなさんと話す時には一人ひとりの顔をじっと見つめます。つまらなそうな顔をしている人がいると、気になって仕方がありません。『何がそんなにつまらないの?』と聞きたくなります。ワクワク感、好奇心がない人は、私にとって必要ありません。なぜなら社員がつまらなそうな顔をしていたら、お客様も一緒に仕事をしたいと思わないから。『おもしろきこともなき世をおもしろく』――私の座右の銘です。私のところに話をしにくるときには、笑顔で来てください」
座右の銘といえば、三菱重工業の泉澤清次社長はこんな言葉を紹介した。
「私の座右の銘は『守破離』(しゅはり)という言葉です。私が学生時代から続けている剣道など武道の修業の段階を示しています。指導者の教えを忠実に学び、確実に身につける段階の『守』。そこで学んだことに自分なりの工夫を凝らし技術を高める段階の『破』。技術をさらに深め、独自に新しいものを確立していく段階の『離』。しっかりとした基本に自分が工夫をして、初めて『形破れ』が実現します。まずは、先輩たちのよいところは貪欲に真似をして自分のものにしてください」
一方、経営者の「ホンネ」ともいえる言葉で、ガツンと新入社員にカツを入れたのが近鉄エクスプレスグループの鳥居伸年社長だ。
「当社は世界45か国にネットワークを持つ、社員数1万8000人の世界規模の会社です。『グローバル・ロジスティクス・パートナー』と称していますから、何となくスマートなイメージを持つかもしれませんが、その実態は『貨物屋』です。365日24時間、世界のどこかで多くの社員が現場で働いています。スマートとは異なる泥臭さが実態なのです。NHK大河ドラマ『いだてん』の主人公・金栗四三の碑に刻まれている言葉は『体力、気力、努力』ですが、この順番に大きな意味があるようです。つまり、体力がなければ気力がついてこず、体力と気力が充実しなければ努力もままならない。体力も気力も充実した若い皆さんは、精一杯努力をして自己研鑽に努めて下さい」
と、泥臭い「体力勝負」を強調したのだった。
「君が会社のために何をできるかを問いたまえ」
アツさでは、こちらも負けていない。ジョン・F・ケネディは「国が諸君のために何ができるかを問うのではなく、諸君が国のために何ができるかを問うてほしい」と言ったが、似た言葉で訴えたのが、化学メーカーのトクヤマの横田浩社長だ。
「皆さんは、まさに不透明な時代に社会人の一歩を踏み出した。正義とは何か。自由と民主主義を基調にした正義が揺らぎつつあります。AIは人類を豊かにするのか、人類の脅威になるのか。こうした世の中で何に希望を見出して人生100年時代を生き抜いていくのか。常に自分を磨き続けることが大事です。会社に何かをしてもらおうという姿勢の人はこの会社にはいらない。これをやりたいという自立した人になってほしい。創業者である岩井勝次郎の言葉を紹介して挨拶を締めくくりたい。『常に事業は艱難に成り、安逸に敗る』」
「入りたい企業ランキング」で常にトップクラスの伊藤忠商事の鈴木善久社長も、激しいエールを送った。
「皆さんに『新人としてまずは目の前の仕事に全力を尽くせ』などとは言いません。そんなことは伊藤忠では当たり前です。激戦を乗り越えてきた皆さんは選ばれた人材のはず。定型の基本を学んだらさっさと自分の頭で考え、知恵をめぐらす、それが伊藤忠の求める新入社員です。1990年代、『これからの商社は卸ではなくリテールだ』と主張した若手社員が、夢かなわず転職した。数年後、伊藤忠はファミ―マートを買収します。それから20年、その若手はファミリーマート社長として戻ってきた。澤田貴司社長その人です。新人や若手の夢がそのまま実現するわけではありませんが、若い人の発想や感性が新しいことを生み出す原動力になるということです」
「1000年先の人類、昆虫にまで思いをはせよう」
一方、熱心に自分の夢を語る社長は、特に中小企業に多かった。
再生可能エネルギーの発電などを展開するシン・エナジー(神戸市)の乾正博社長は、3人の新入社員を前に時間のスケールが大きい夢を語った。
「未来の子どもたちからの『ありがとう』のため 生きとし生けるものと自然が共生できる社会を――というわが社の経営理念は、1000年先に人類は地球で暮らしていけるのか、という深刻な懸念から生まれた言葉です。皆さんは人類だけでなく昆虫や動物も含めた環境について考えてください。さて、『働く』という字は、『傍楽(はたらく)』という字を当てれば、『周りの人が楽(らく)になる』『周りの人を楽(たの)しくする』という意味を込めることもできます。日々の仕事を楽しんで、若い感性を仕事に生かして下さい」
「皆さん元気ですか~?」と8人の新入社員に呼び掛けたのは、業務用厨房機器を製作するタニコーテック(福井県大野市)の高柳一則社長だ。
「当社は、夢を実現する会社です。皆さんの斬新なアイデアは明日からでも発揮できるはずです。私は昨年の入社式で『ロボットや人工知能を取り入れた未来の厨房を創りたい』という夢を話しました。それが早くも今年2月に開催された展示会で出品することができました。ロボットがハンバーガーやたこ焼きを調理したのです。夢を描き、目に見えるカタチにする。これぞタニコーイズムです。楽しくワクワクする未来を一緒に創っていきましょう!」
ANA(全日空)グループの片野坂真哉(かたのざか・しんや)グループCEOもこんな若き日の夢を打ち明けた。
「私は、入社して40年目になります。新入社員の夢を会社の社内報に寄せた事があるのです。私の夢は『全日空は、今は国内線しか飛んでいませんが、いつの日か宇宙旅行に進出しているかもしれない』でした。夢は、努力すれば必ず叶うのです。入社本当におめでとう」
「命」と「愛」の大切さを訴えたのが、全国に保育施設を展開するポピンズグループ(本社・東京都渋谷区)の轟麻衣子社長だ。保育士を中心に女性社員が多いとあって、初の「託児室付き」の入社式となった。
「お子様を預かるということは、その一人ひとりの命を、責任を持って預かるということです。そしてお子様の成長を促して輝く人生へと導きます。お子様を育てながら、そのお母様、お父様も応援するのです。働くお母様が安心して仕事ができるよう寄り添うのです。この根底にあるのは『愛』です。『愛』こそがポピンズのエンジンなのです」
入社式の挨拶には、社長の人柄とともに、企業文化も表れるようだ。(福田和郎)