「KISSME(キスミー)」ブランドなどで知られる化粧品会社、伊勢半(東京都千代田区)は2020年の新卒者採用で、新しい試みとして「顔採用」の枠を設け、このほど東京都内で選考対象者らを集めて会社説明会を行った。「顔採用」のネーミングはもちろん象徴的なもので、個性重視の選考を強調した言い方だ。
しかし、インパクトはやはり大きかったようで、エントリー数は予想を大きく上回ったという。新卒の就職をめぐっては人手不足を背景にした売り手市場が続いており、各企業は認知度アップに力を入れている。伊勢半では手応えを感じており、まずはクリーンヒットになったようだ。
リクルートスーツなしの会社説明会
伊勢半が顔採用を導入したのは「商品企画部門またはデジタルマーケティング・広告宣伝部」に配属する新卒社員の募集。新商品の企画・開発や販促、広告などの業務を任せるには、個性の表現、自分の売り込みが巧みな人を充てたいという狙いがあるからだ。
同社の主力ブランドの「キスミー」のブランドメッセージは「私らしさ、愛せる人へ。」。これに合わせて同社では応募要項の中で、「『私らしさ』とは何か考えたうえで、メイクも服装も自身を表現できる装いで」と促した。その結果、2019年3月29日に行われた会社説明会には、思い思いのファッションに身を包んだ51人が参加した。
参加者のほとんどが女性。エッジが効いたセレモニースーツや、デザイン性が強調されたワンピースなど、華やかなファッションもあれば、アウトドアブランドのパーカーといった、ふだんの通学スタイルそのままの服装も。「個性」をアピールするために、わざとリクルートスーツで訪れる「挑戦」も予想されたが、そういった学生はいなかった。
集まった学生たちは、「顔採用」のネーミングには戸惑いを感じたものの、脱リクルートスーツの就活ができることには歓迎の様子。ただ、リクルートスーツでも選び方や着こなし次第でパーソナリティーをアピールできるのではないかという意見もあった。
学生の不満知り問題提起
伊勢半が「顔採用」を導入したのは、就活生を対象にした調査で、就活でメイクや服装に不自由を感じている学生が5割を超えていることを知ったため。ファッションばかりでなく、型にはまった履歴書やエントリーシート作りの繰り返しでストレスが募り、肝心の面接でつまずくこともあるという。
「顔採用」枠の配属先であるデジタルマーケティング・広告宣伝部の大町龍部長によると、ネガティブな反応を懸念する意見が出されるなど抵抗もあった。だが、ブランド力向上ため、また学生が不自由を感じている就活に問題提起のためにも一石を投じようということで社内にコンセンサスができ、ゴーサインが出された。
2020年採用の新卒就活が解禁になった3月1日、日本経済新聞に「顔採用」を告知する広告を掲載。このことを報じる記事が「ヤフートピックス」に載り、ツイッターでは賛成、反対の意見を表明する投稿が相次いだ。広告では、写真共有アプリ、インスタグラムやウェブの応募フォームなどを使ったエントリーを募集。大町部長によると、エントリー件数は「想像を大きく上回った」ほど。そのなかから選考を通過した51人を説明会に招いた。
伊勢半のこの数年の採用実績は、2017年が11人。18年が21人で、この4月に入社した19年採用が11人だった。2020年には、通常の採用枠と顔採用枠を合わせて18人を採用する予定。