バスガイドといえば女性のイメージが強いが、東京や横浜を中心に東日本で定期観光を行なっている「はとバス」に2019年4月、初めて2人の男性バスガイドが誕生した。
現在、新人研修の真っ最中で、早ければ今年(2019年)4月末にデビューを果たす。J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では2人に、女性ばかりの職場に挑戦する意気込みを聞いた。
「おもてなし」と「優しさ」がバスガイドのココロ
2人は、東京都出身の三國蘭(みくに・らん)さん(18)と長崎県出身の松尾龍治さん(18)だ。1948年に創業した「はとバス」70年の歴史の中で、初の男性バスガイドとなる。ほかの24人の女性とともに今年4月入社の採用試験に合格した。
はとバスのバスガイドは、70年間ずっと女性だけだったわけだから、「女性に限る」という募集条件がついていたのかと思いきや、同社広報室の峰岸智美さんは、こう説明する。
「もともと採用条件には『男女を問わず』とあり、男性にも門戸は開かれていたのです。実際、過去に数名応募された男性がいましたが、合格基準に達しなかったため、採用に至りませんでした。今回は、あくまで2人の男性受験者が初めて選考基準をクリアしたということです」
つまり、これまでも「女性だから」「男性だから」という選考はしてこなかったというのだ。では、そのバスガイド選考基準で、特に重視されるものとは何か。峰岸さんは、
「おもてなしの心を持ってお客さまを迎えることを大切にしております。また、接客中にその場その場で判断する、優しさも重視しています。採用担当者から、三國と松尾からは優しさがにじみ出ていたという話を聞いています」
と語った。
採用試験では、筆記と面接に加え、適性試験として、発声能力を見るマイクを通した「本読み」、そして自分の得意な歌を一曲歌ってもらった。観光バスは渋滞に巻き込まれることがよくある。そんな時、臨機応変に場を楽しませるためにも、歌う能力が欠かせないという。2人は歌唱力とサービス精神でも合格点だったわけだ。
三國蘭さんにバスガイドを志望した理由を聞いた。
「高校2年の修学旅行で沖縄に行った時、バスガイドさんがとても魅力的な人だったので、その仕事に憧れました。沖縄戦の野戦病院に使われた糸数豪(いとかずごう)や亡くなった人々の慰霊碑などを案内してもらいました。『戦争がなければ、この石碑は必要なかったのです』と慰霊碑に触りながら言ったガイドさんの瞳に光るものを見ました。ただ案内するだけでなく、伝える説明でした。ああ、こんな仕事をしたいなあと思ったのです」
適性試験では、中島みゆきの「糸」を歌った。かなり難度の高い曲だ。高校時代は部活で演劇やダンスをやっていたので、「表現をすることは得意だし、好きです」という。おもしろいのは、三國さんはバスガイドが女性ばかりであることを知らなかったことだ。
「高校に来た、はとバスの募集パンフレットに『男女不問』と書かれていたので、男性もいるだろうと漠然と思っていました。ところが、会社見学会で人事の人から女性だけであることを聞かされ、『へえ~、そうなんですか!』と驚きました。しかし、もともと頑固というか、好奇心や開拓精神が旺盛なので、何の問題もないと思いました。落ちることはまったく考えていませんでした」
と、自信たっぷりに語る。
素敵なバスガイドとの出会いが挑戦のきっかけ
松尾龍治さんも志望理由は同じだ。高校2年の修学旅行で長野県にスキーに行った時のバスガイドがとても魅力的だったので、その仕事に憧れたという。
「バスガイドさんの説明がとてもうまくて、修学旅行を楽しく過ごせました。高校は工業高校でほとんど男子ばかりなのに、はとバスから募集パンフレットがきていたので、『ひょっとして男でもいいのかな』と思いました。迷って先生に相談すると、『おもしろいじゃないか、やってみろ』と背中を押してくれました」
女性アイドルグループBerryz工房のヒット曲に「青春バスガイド」がある。『青春バスガイド キミはまぶしい 記念写真撮っていいかい? ひとめぼれなんだ 僕が弾けた......』。どうやら、多感な男子高校生にとって、素敵なバスガイドとの出会いが運命を左右するパワーを持つことがあるらしい。
松尾さんは、適性試験では渥美清の「男はつらいよ」を歌った。高校時代の部活は「ボランティア同好会」。松尾さんは「ゴミ拾いですよ」と謙そんするが、人のために尽くす気持ちが人一倍強いようだ。
研修では、先輩バスガイドの指導を受けながら、東京都内の名所旧跡の知識の勉強や、渋滞にあった時など、どんな場合でも間を持たすことができる「引き出し」の貯金などに励んでいる。4月22日に研修の「最終テスト」がある。1人でガイドをできるかどうかを見極める。合格すれば、1人で観光客を乗せて都内を案内する、デビューできる。
ちなみに、はとバスでは男性バスガイドとは逆のケースとして、この4月から女性バスガイドが運転手になる道も拓いた。すでに大型2種免許を取得済みで、4月1日から運転手の研修を受けている。峰岸さんは、
「バスガイドも運転手も、職種によって男女を分けることなく、同じように門戸を開いていきたいと考えています」
と語っている。
(福田和郎)