『首都圏沿線格差2019』スタンダーズ
「住所格差」や「駅格差」など、東京を中心にする首都圏での地域間格差をテーマにした本が2年ほど前からポツポツと現れはじめ、いまでは数も随分増えている。本書『首都圏沿線格差2019』は、そんな新ジャンルの最新刊の一冊。これまでの地域間格差についての書籍は新書が主だったが、こちらはB5判のムックタイプで図表を多用するなどビジュアルを重視しており「格差」がより分かりやすくなっている。
「住みたい街ランキング」
住宅情報会社などいくつかの企業が発表している「住みたい街ランキング」で、最近の傾向として共通しているのは、かつて最高の人気を誇った「吉祥寺」地区(東京都武蔵野市)の後退と、さいたま市内のいくつかの街の躍進、それと、これまでは敬遠されていた東京東部の街々が注目されていることだろう。
不動産総合情報サイト「SUUMO(スーモ)」を運営するリクルート住まいカンパニーが2月に発表した「住みたい街ランキング2019年関東版」によると、1~3位は2年連続で「横浜」「恵比寿」(東京都渋谷区)「吉祥寺」の順。3年前は、「吉祥寺」「恵比寿」「横浜」の順だった。そし19年版では、さいたま市の「浦和」が前年の10位から8位に、同「さいたま新都心」が同29位から23位に上昇。3年前はそれぞれ19位と63位だった。
また、こうしたランキングや調査などと以前は縁がなかった東京東部の街の名前が見えるようになったもの最近の特徴。リクルート住まいカンパニーの19年関東版ランキングでは、「北千住」(東京都足立区)が「表参道」地区(東京都渋谷区)と並ぶ20位に、また「赤羽」(東京都北区)が32位にみえる。その下に「三軒茶屋」(37位)や「たまプラーザ」(39位)など東急田園都市線沿線の街の名前があった。
「優劣はない」
「住みたい街」のランキングができるのは、本書によれば、鉄道が大いに関係しているらしい。「鉄道が社会インフラとして都市に欠かせない機能を果たしている以上、そこに優劣はないのだが、それでも『○○線沿線はおしゃれだ』『○○線沿線はダサい』という価値観は存在する」。だから、東京などの首都圏に初めて住む人は、既存の価値観を頼りにその場所を決めることになるため、東京ならば山手線の西側に目が行きがちだし、近県に範囲を広げれば、南西側の横浜方面を向いてしまう。
インターネットが情報インフラとして定着してからは、ダサいと思われてた路線沿線の街がじつは、おしゃれな街よりずっと住みやすい可能性を秘めているかもしれないことがわかってきて、住む場所の選び方が変わってきた。だからこそ、さいたま市の街々が、漫画や映画でさんざんディスられているにもかかわらずランキングが上昇したり、昼間から酔っ払いがいるとかアブないとかを理由に敬遠されてきた東京東部の街の評価がアップしているのだ。