日本経済新聞が「過去20年、主要各国の中で唯一日本だけが賃金が下がっている」と報じて、大きな波紋を呼んでいる。
【参考リンク】「賃金水準、世界に劣後 脱せるか『貧者のサイクル』」日本経済新聞(2019年3月19日付)
人事担当者の間では常識になっているので、今さら感のあるニュースではあるが、「財界の陰謀」だの「アベノミクスの副作用だ」だのと言いだしている、おかしな連中もいるので、将来のある若者向けに基本をおさらいしておこう。
賃金が下がったのは終身雇用だから
20年前と比べて賃金が下がった理由は、高給の中高年正社員が定年退職して非正規雇用として就労したことなどいくつかあるが、やはり労使が終身雇用の維持を最優先したことが大きい。
長期間の雇用を維持するには、将来的な景気動向などのリスクを織り込んで賃金水準を抑制する必要があるためだ。
「はっきりいって賃上げの余裕はあるが、今後数十年にわたって雇用を維持できる水準に抑えておこう」
と、労使で話し合っている企業を筆者自身いくつも知っている。
だから、賃金では日本は負け組だが、失業率では世界一の優等生の座を維持し続けている。
そういうわけで、前回の可処分所得の件と合わせて、リベラルの皆さんは「20年間で賃金が下がったのは、我々が何が何でも雇用を守らせた副作用だ。そのくらい我慢しろ」と胸を張るといいだろう。
【参考リンク】「『アベノミクス』効果あった? それでも庶民生活が苦しいワケはこれだ!」J-CAST会社ウォッチ(2018年12月31日付)
ちなみに、この話が人事担当者の間では常識だと言ったのは、中途採用で外国人や外資系企業の出身者を採用する際に、
「え? なんで御社はグローバル企業なのにこんなに安月給なんですか!?」
「いえ、その代わりに不祥事でも起こさない限り寝てても65歳まで雇ってあげられますよ」
という会話を、誰でも一度はしているからだ。
その結果、マトモな人材には逃げられるが。
グローバル経済の中で、現状維持は後退
ひょっとすると読者の中には、ここまで読んで「ちょっとくらい賃金が下がったって失業率が低いのならそれでもいいだろう」と思った人もいるかもしれない。
もし、世界に日本しかない状態だったら、それでもよかったかもしれない。でも、世界には日本以外にも多くの国があり、より豊かになろうと日々しのぎを削っている。
そんな中で、成長より「今雇っている人を雇い続けること」を最優先にする国は、現状維持にすら失敗するに違いない。
皆が歩き続けているなか、一人だけ歩みを止めるようなものだからだ。
失われた30年と言われつつ、奇妙なほどに安定した社会を日本は維持してきたものの、やはり失われたものは大きかったというのが筆者の見方だ。(城繁幸)