「中国」という巨大市場と中長期にかかわっていこうと、商品を売り込んだり、日本の旅行情報を伝えたりする中国向けサイトを作る企業や自治体が増えている。
いまや北海道から沖縄までの47都道府県、そして政令指定都市などの大半が、中国語サイトを作っています。私たちは、そのうち126サイトについて、中国での「見え方」を現地で調べたところ、10秒以内で開いたサイトは、たった一つだけでした。
中国で「Googleが使えない」ことの意味
このサイトの設計は、いわば「中国仕様」になっていたのですが、そうなっていないサイトは、開くまで平均約45秒かかっていました。中国人は、せいぜい待って10秒。それ以上かかるようだと、サイトが開くのを待つどころか、先に進んでもくれませんし、すぐによそのサイトへ移ってしまいます。
皆さんがせっかく一生懸命に作られていて、豊富な内容があるサイトなのに、こんなにイライラする状態では、中国のお客さんはまず見てくれません。日本でスムーズに閲覧できたとしても、現地での見え方は分かりません。企業のサイトについても、こうした残念な事情は同じで、日本にいてはこの種の問題に気づくことは難しいものです。
スムーズに閲覧できない最大の原因は、中国では見ることのできないサービスを使っていることです。たとえば、調査した自治体サイトのうち約8割がGoogleMapを設置し、約5割がYoutubeを使っていました。
中国では、ほかの国では一般的なGoogleやTwitter、LINEが使えず、中国独自のサービスを使わねばなりません。
「中国仕様」を求められるわけですが、このような中国の特殊性は、海外ビジネスをしている人にもあまり知られていません。その結果、日本国内向けウェブサイトと同じ感覚で中国語サイトを制作してしまい、得たい効果が失われているわけです。
「巨大市場」中国に、日本企業は及び腰
私と中国とのかかわりは2006年に、メーカー駐在員として働き始めたことがきっかけです。その後、上海でウェブ制作やマーケティングに従事しました。中国のウェブ環境は、これまで10年間以上の体験から言っても、確かにややこしいです。でも、プロモーションの照準を大勢の潜在顧客がいる場所に合わせることはビジネスの基本ですよね。中国向けサイトがこうした状況なのは、日本企業の中国へのスタンスがまだまだ及び腰であることを映していると思います。
もっとも、自社の中国語サイトを診断し、ちゃんとしてほしいというオーダーは、じつはここ最近、ジワジワ増えつつあるんです。
「サイトを診断してほしい」というオーダーを受けると、中国各地にいる私たちのスタッフがそのサイトの現状を動画で撮影。なかなか開かないようなら、問題点を特定して対策を講じます。改善対策後、スムーズに開くようになった様子も動画で報告。当社では、このようなサービスに対してフィーをいただいています。
2025年の大阪万博の開催が決まって、インバウンド需要がより続く見通しが立ってきたことや、最近は日中関係がよくなってきていることが、「サイトを点検しよう」という動きを促しているとみています。
じつは最近の特徴として、健康診断や美容整形といった「医療インバウンド」を手掛けるクリニックなど、これまでよりも広い分野の人たちまでも、中国語サイトの「見え方」に意識を向けてきていることがあります。
昨今、中国経済の減速が何かと注目されています。ただ、減速しているとはいえ、2019年のGDP(国内総生産)成長率の目標はまだ6%台。日本円に換算すれば90兆円前後の富が新たに生み出されていくわけです。
すぐ隣にある、こんな巨大市場を相手にしないのは、不作為の罪に近いんじゃないかとまで、私は感じています。
《プロフィール》
中島 嘉一(なかじま かいち)
愛媛大学情報工学科卒業後、船井電機に入社。同社の中国拠点で勤務後、2012年から上海で日系企業のホームページの制作やウェブマーケティングに携わる。16年4月「レクサー」を創業。17年12月に中国最大手検索サイト「百度」(バイドゥ)日本法人と提携する。中国の最新ビジネス事情を発信する「36Kr Japan」(https://36kr.jp/)顧問を兼任。
1983年、愛媛県出身。36歳。