百貨店の新しい転機とエコノミスト
阪急メンズ東京の母体は、1984年に同じ場所にオープンした「有楽町阪急」。その後、2011年にリニューアルを実施、メンズ専門館に生まれ変わった。
当時は「世界が舞台の、男たちへ。」をテーマに、大人の男のメンズファッションスペシャリティストアとしてスタート。「上流志向の顧客」に応える独自性で支持を得たが、近年はそれぞれの価値観を重視する客層が増加。また、働き方改革の影響によるファッションの変化、有楽町・銀座エリアで海外からのインバウンド客が増えていることなどを受け、それらのことに対応した売り場への刷新が図られた。
阪急阪神百貨店の民谷さんによれば、百貨店業界では、各社が時代にあった業態を模索しているところ。「阪急メンズ東京は、業界のなかでは野球でいえば7番打者的存在。チャレンジできるポジションだった」という。
TENGAの成長ぶりをみると、モノ珍しさとかキワモノ的な興味を刺激したことが理由でなく、性をまじめに考えていることが理解されたものと判断する。しかも、その商品が見た目のポップさばかりではなく、機能をしっかり追求したものであることから出店を要請した。
TENGAの動向について注目し、雑誌などで同社について論評したことがあるという明治大学政治経済学部准教授のエコノミスト、飯田泰之さんは、TENGAの今回の出店は歴史を誇る百貨店にとってエポックメーキングなこと、とみている。
飯田さんによると、百貨店業界は17世紀の誕生以来さまざまな転換期を迎え、最近では2000年代に入ってからの地下の食品売り場の拡充が業績を支えた。百貨店はほとんどが低空飛行を続けており、成長につながる商材、サービスの開発に努めている。
「百貨店はハイエンド品専門から転換して、雑貨に力を入れるようになり、その割合は2012年以降、幅を広げている。そのメーンは化粧品」と述べ、こうした点から、TENGAの製品に可能性を見出す。
「阪急は(歴史的にみても)これからの商材を扱ってきた会社」で、今回の動きが業界の「今後のロールモデルになる」とみる。
一方、TENGAの製品も、これまでは一部の消費者、愛好家対象から、一般商材、一般雑貨として扱われるようになっており、今回の2社の組み合わせが何らかの「化学反応」が起きる可能性もあるという。
百貨店の小売業界での存在意義はまだまだ大きく、ひいてはスーパー・量販店やコンビニエンスストアなど小売りのなかで大規模な転機につながる可能性もあるという。