働き方改革が叫ばれるなか、残業を減らすためにドローンを夜のオフィス内に巡回させるサービスを始めた企業がある。
ドローンを飛ばすことで帰宅を促し、翌日、ドローンが撮影した映像をもとに管理職が遅くまで残っていた部下を注意するというわけだが、本当に効果があるのだろうか。
「ブーン」と羽音がうるさくて仕事にならない効果
このドローン「T-FREND」(ティーフレンド)を開発したのは総合ビルメンテナンスの「大成」(東京都新宿区、加藤憲司社長)だ。
あらかじめ設定された時間がくると、オフィス内に置かれていた場所からフワッ~と自動的に離陸する。そして、高さ1.5~1.8メートルをキープしたまま定められたルートを飛行する。カメラを搭載しており、オフィスのすみずみまで社内の残業状況を撮影して記録、専用のクラウドに送信して保存する。そして、約10分飛行すると任務終了、自動的に元の場所に着陸する。翌日、管理者がパソコンやスマホからクラウドのデータに接続、残業していた人々を把握して、本人に注意する仕組みだ。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部記者は2019年2月末、大成本社のオフィスで「T-FREND」の飛行を見せてもらった。開発責任者の加藤憲博専務によると、同社の勤務時間は8時45分~17時30分だから、毎日19時~20時頃には「残業予防」のパトロールのため飛ばしているという。
「T-FREND」はオフィスの片隅にある40センチ四方ほどの「専用発着場(ポート)」に置かれていた。ポートはバッテリーを兼ねており、静止中に充電される仕組みだ。「5分後に離陸しますよ」と担当者がiPadに飛行開始時間を打ち込んだ。iPadにはあらかじめ飛行ルートなどのデータが入っており、操作もiPadで行なう。
時間がくると、「T-FREND」はいきなりプロペラを回し、浮遊した。「ブーン!」という羽音がものすごく大きいことに驚いた。ドローンによる見事な空撮動画を見ると、いつも静かなので無音のイメージがあったが、とんでもない。そもそもドローン(drone)という名前は「オスのミツバチ」という意味なのだ。
加藤専務は、
「当初は、ドローンから『蛍の光』を流して帰宅を促すことを考えたのですが、羽音がうるさくて音楽がかき消されます。だいいち、ドローンが近づいて来たら、うるさくて仕事にならないから、みんな帰る気になるでしょう」
と笑った。
大きな物流倉庫や工場、結婚式場でも使えるか?
「T-FREND」は1.5メートルの高さをキープしながらオフィス内を飛行したが、社員の机の上を飛んだりしない。床の歩行ルートの上だけを飛ぶ。万が一、仕事中の人間の上に落ちたら事故につながりかねないからだ。数分後、巡回を終えると、ポートに見事に着陸した。
開発では、大成が企画とサービスを考え、「ブルーイノベーション」がGPSを使わない屋内の自律飛行システムを提供、NTT東日本がインターネットを使わずに大量のデータをクラウドに送信するネットワーク基盤を提供した。現在、自律飛行するドローンはほとんどがGPSを使用しているため、人工衛星の電波が届きにくい屋内飛行を実現したのは業界初だという。また、インターネットを使わないため、ハッキングなどによってデータを盗まれる心配がない。
そもそもどうしてオフィス内にドローンを飛ばして、残業を減らすアイデアを思いついたのか。加藤専務はこう語った。
「本業のビルメンテナンスで、人手不足によって夜のオフィスを巡回する警備員が集まらなくなったからです。そこで、ドローンに巡回させるシステムの開発を進めているうちに、働き方改革が話題になるようになりました。ある記者から『残業をしている人の偵察に使えるのでは』と言われ、なるほど!と閃いたわけです。もちろん、カメラを踏査しているので不審者を発見でき、警備にも使えますが、残業の抑制効果のほうが現在のトレンドですからね」
警備と残業抑制との一石二鳥というわけだ。
2018年10月からサービス開始のアピールを始めた。利用料金は1年契約で40万円。警備員を確保するより確かにコストはかからないが、これまで40社ほど問い合わせが来ているものの、契約にこぎつけたところは出ていない。しかし、問い合わせの過程で、「屋内初の自律飛行ドローン」ということで思わぬ副産物の使いみちのアイデアが次々と出てきた。加藤専務が語る。
「たとえば物流倉庫内の検査です。山積みされている上の棚は確かめるのが難しい。品物のバーコードを、ドローンのカメラで読み取って点検する。大きな工場では生産ラインの工程で部品交換する時にドローンで補充することができるし、書類の配達もできます。地下の危険な機械室の検査にも活躍できる。また、結婚式場で上からの動画を撮影するというアイデアもいただきました」
(福田和郎)