コンビニエンスストアの運営をめぐって、昨今の人手不足が24時間営業にも影響を及ぼし、コンビニオーナーからの悲痛な叫びとともに強行された「自主営業時間」の短縮が話題になっています。
人が採れず、オーナーが働き詰めにならざるを得ない現状と、契約を盾に24時間営業を強制するフランチャイズ本部の姿勢に、賛否が渦巻いています。
ベテラン経営者が一刀両断!
この問題に、私の周囲ではフランチャイズ店のオーナーに同情的な声が多くあります。
(1)「オーナーと言えども生身の人間。からだを壊そうが我関せず的なフランチャイズ本部の姿勢は、ブラックそのものじゃないのだろうか」
(2)「そもそも現場が骨身を削って努力して、本部だけが儲かるようなビジネスモデル自体がどうなのかと思う。営業時間短縮するなら契約解除に膨大な違約金って、アコギですね」
(3)「営業環境とか、人手の充足、不足の問題は店舗によって事情が異なるのだから、もう少し店舗オーナーの裁量を認めてあげてもいいのではないだろうか」
主に、このような声が聞こえてきたのですが、会社経営歴40年のベテラン経営者のT氏の見解は少し異なっていました。
「コンビニオーナーがたとえ個人事業主であったとしても、それは経営形態の違いだけで企業家には変わりがないのですから、私から見れば考えが『甘い』の一言です」
T氏の会社は長年、大手電機メーカーS社の一次下請企業としてその売り上げの大半をS社から受注してきています。フランチャイズ契約でこそないものの、言ってみれば昭和の時代から受注先大手企業の指示は絶対服従。それが守れないならビジジネスは成り立たない、と先代社長である父からも厳しい教えを受けつつ、事業を引き継いできたのだといいます。
サークル内の「掟」は守らなくてはいけない
「大きな取引先のビジネスモデルに入らせていただいて仕事をさせてもらう以上、そのサークル内の『掟』は守らなくてはいけないのです。理由はどうあれ、自社の勝手で『掟』に背くようなことをするのなら、そのサークルを離れなくてはいけません。フランチャイズ契約は『掟』でありそれに則った指示をうけているのなら、言わずもがなです。我々だって発注先大手さんからは幾度となく無理難題をぶつけられ、私自身が社員に代わって現場に入り、何日間も徹夜状態で急ぎの受注を死に物狂いでこなしたこともあります。オーナーの働き方改革? ビジネスオーナー自身には無関係という理解は、基本中の基本です」
さらに、私があげた前記の(1)~(3)のような声をどう思うかをたずねてみると、T氏は、そのどれに対しても厳しい見解を返してきました。
(1)に対しては、「契約時点で自分が深夜勤務に入らざるを得ない、今回ようなの事態を想定できていなかったとすれば、それはビジネスオーナーとしての見通しが甘すぎる。ビジネスオーナーは従業員ではないので、ブラック批判は当たりません」
(2)に関しては、「フランチャイズ本部が儲けすぎているか否かは、ビジネスモデル上の問題であって本件と混同すべきではない。オーナーはそのビジネスモデルに納得して当初契約しているのであり、不満があるなら別途折衝して、契約内容の見直しを打診するのが筋」
(3)には、「たとえ状況はどうであっても、了解を得ないままでの契約に違反する行為はビジネスの基本として絶対に許されない。まずは契約に謳われている義務を果たすこと。権利主張はその後の話」
といった具合。
そして最後に、
「厳しいことを申し上げるようだが、ビジネスオーナーというものはナマやさしいものではない。今の時代、そこをわかっていない『甘ちゃんビジネスオーナー』が多すぎるのではないか」
と、どこまでも厳しい見解で締めてくれました。
「契約」をビジネス先進国の欧米と比べると......
このようなT氏の見解が論理的には正しいとしても、こと一個の人間としての健康などにも関わる問題でもあり、果たして倫理的はどうなのか、さらには心情的にはどうか等々を加味して考えると、成否の判断は難しいようには思います。
ただ、「契約」というものに対する考え方がビジネス先進国である欧米に比べて甘いという点はT氏ご指摘のとおりであり、企業経営者を含め日本のビジネスオーナー全般に言えることではないかと思います。
欧米的では当たり前とされる契約至上主義的な考え方が、じつは平成を代表するビジネスとも言える欧米発のフランチャイズビジネスの店子オーナーではなく、昭和から脈々と続く大企業を中心とした下請けのピラミット構造内に生きる企業経営者にこそしっかりと守られているというのも、なんとなくおもしろい気がします。
「平成」終了まで、あと2か月足らず。昭和、平成に続く新しい時代に、大小異なる資本の間で結ばれる契約を巡る我が国の考え方は、どのように変わりどのように事業経営に影響を及ぼしていくのか、今回の件の成り行きも含め注視が必要であると感じた次第です。(大関暁夫)