英国のテリーザ・メイ首相は2019年2月26日、EUと合意した離脱協定案を3月12日までに採決にかけると発言しました。
そのうえで、下院がこの協定案を否決した場合、
(1) その翌日に「合意なきブレクジット」を下院が支持するのかどうか採決する。下院が「合意なきブレクジット」を明確に支持した場合のみ、英国は3月29日に合意のないままEUを離脱する。
(2) 「合意なきブレクジット」が下院で否決された場合、下院は3月14日までに、EU基本条約第50条に定められた2年間の離脱交渉期限を延長し、EU離脱を3月29日以降に延期するかどうかを採決する。
と、表明しました。
英国、再度の国民投票はあるのか?
重要なのは、メイ首相が初めて3月29日の離脱期限延長に言及したこと、そして英下院が明確に支持した場合のみ「合意なきブレクジット」となるとはっきりさせたことです。
これで、期限が来ることで自動的に、ハプニング的に「合意なきブレクジット」になるリスクはなくなりました。
英下院が「合意なきブレクジット」に反対していることは、27日に行われた下院採決において、「合意なきブレクジット」を避けるために、離脱期限延長を求める労働党クーパー議員案が圧倒的多数(賛成502対反対20)で可決したことからも明らかです。
英ポンドは、こうしたメイ首相の発言を受けて大きく買われ、対ドルで1.30ポンド前後から1.3350ポンド前後まで買い進められました。
一部のアナリストは、
「単に期限が延長されただけで、『合意なきブレクジット』の可能性はまだ残っている」
「状況は何も変わっていない」
と言います。
しかし、状況は大きく変わっています。期限が近づくにつれ、各グループが意見を明確にすることで、さまざまな選択肢が削ぎ落とされています。
もはや、「合意なきブレクジット」の確率は、もちろんゼロではありませんが、限りなくゼロに近づいていると言えます。そして残りの選択肢は、EU側と合意した離脱法案(現在バックストップに関して、付帯条項を付けることができるかどうか、EU側と協議中)、もしくは再度の国民投票、この二つでしょう。
ブリグジット最終局面、今年前半の最大のヤマ場に
状況が変わったのは、労働党から7人の議員が離党したことです。7人はいわゆる親EU派議員でした。元来、親EUであった労働党はさらなる離党者を出さないため、党の方針を2回目の国民投票実施に定めました。
労働党側が2回目の国民投票実施に動いたので、焦ったのは保守党内のハードブレクジット派議員たちです。もし、下院で国民投票の実施が採決された場合、保守党内の親EU派議員が賛成に回ることで、国民投票の実施が決まるかもしれません。
そうなると、国民投票の結果次第では、せっかく勝ち取ったブレクジットが水泡に帰す可能性もあります。
そのため、ハードブレクジット派の有力議員であるジェイコブ・リースモッグ議員は、懸案となっているバックストップに期限を付けるなど、何らかの付帯条項を付けることでメイ首相の離脱案に賛成できると、大幅に譲歩してきました。
ただ、バックストップに付帯条項を付ける、EU側と英国側の話し合いは進んではいますが、今のところEU側は付帯条項に同意していません。
しかしながら、言えることは当初432対200という圧倒的大差で否決された案が、意外なことに3月12日にも合意に達する可能性があるということです。
とはいえ、現実的には3月12日の採決では、おそらくEU離脱法案は否決される可能性のほうが、まだ高いでしょう。その時は、失望からいったん英ポンドは売られる可能性はあります。しかしながら、3月14日までに延期が決定する可能性は極めて高いので、延期が決まるだけでも英ポンドは買い戻されると想定されます。
延期の決定で、1.33ポンド前後ぐらいまで上昇するのではないかというのが、市場の予想です。
もし離脱法案が可決された場合、そのとき英ポンドは対ドルで1.38ポンド前後まで反騰する可能性が出てきます。
年初こそ、為替市場は大きく動きましたが、その後は膠着相場が続いています。このブレクジットの最終局面において、英ポンドが大きく買い戻されるようであれば、今年前半の最大のヤマ場と言えます。(志摩力男)