すべてのメールに返事してはダメ、無視する勇気も
講師の岸本昌也さんが、こう解説した。
「ひとつひとつのメールの返信で、これが正解というものはありません。ただ、実際の震災の時はこのように次々と判断を求められる状況がやってきます。その時に、全部自分で判断を下していいかというと、そうでもありません。了承する、条件付きで承認する、拒否する、現場に一任する、判断を留保する、判断を延期する、メールを無視するといったさまざまな選択があります。また、メールが来た順番に答えずに、ざっと全体を読み、重要なメールから返信していくという取捨選択が大切になります。特に命の優先が大事です。そのためには、あえて返事をしないという選択もありうるのです」
(そうか、自分の場合は何でもかんでも「了解」「行け」と承認ばかりしていた。命に関わる時は黙って現場に任せる、あるいは重要ではないメールには返事をしないという方法もあった)と反省した。
自分が返信した内容に関する自己採点の結果を見た。あくまで5人一組のグループ内での比較の採点だ。記者の場合は、「判断決定」と「創造性」で平均を上回り、「問題把握」と「対人関係」で平均並み、「報告連絡」「指示へのフォロー」「関連性」が零点に近かった。どんなメールにも「了解です」とすぐ肯定の返事をするのだから「判断決定」が高いのは当たり前。しかし、その判断が的確だったかどうかは別の問題だ。
「創造性」は救援に行く指示を出す時に、「気をつけて」とか「危険になったら戻るように」などと提案することを指すらしい。「報告連絡」「指示へのフォロー」がダメなのは、メールに返信するだけで、営業部長の案件で鳥取工場に問い合わせることや、仙台支店に物資購入の指示を出さなかったためだ。
「関連性」も零点だったが、これは、ほかのメールで浜松工場の状況報告があったのに、その内容をすっかり忘れて、無理な指示を浜松工場に返信してしまったためだ。「WEBインバスケット」の中には、「メモ」のコーナーがあり、次々と来るメールからわかる各地の状況を簡潔に要約することができるのだが、そんな余裕はまったくなかった。
岸本さんはこう語る。
「その人がどんな人間か、一度このテストを体験しておくとよくわかります。全部自分で判断する人は、日頃の仕事ぶりでもそうで、人に任すことができないワンマンだったりします。一方、何も判断しない人は、日頃の仕事も人任せで無責任だったりします。会社組織の中で課長、部長、さらにもっと上のクラスの人にこのテストを行ない、人事担当者だけに結果を見せると、誰がBCP担当者として適格か、判断する参考になります」
(福田和郎)