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大混乱のさ中に営業部長が秘密のメールを

   東京支社の災害対策本部からも矢のようなメールが。

「被害が少ない鳥取工場から、救援物資を静岡本社や各工場に送りたいと言ってきています。関西と東京は大混乱状態なので、被害が少ない仙台を中心に物資を買い集めてほしいと思いますが、いかがですか」

(東京に来いと言ったり、仙台に戻れと言ったり。あれ、そもそも自分はどこにいるのか、東京行の電車に乗ったのだろうか?)と頭が混乱してくる。

「了解です。仙台に戻ります」

と返信すると、営業本部長の長戸から「CC」なしの秘密めいたメールが飛び込んでくる。

「本社が大混乱の状況なので、社長に話す前に内密の相談があります。2か月後に納期が迫った札幌のホテルの案件があり、これが達成できないとホテルチェーンとの取引を失うのではと懸念しています。浜松や三重の工場が無理なので、鳥取工場の生産ラインをやりくりして使えないかという相談です」

(従業員の命や生活が先なのに、そっちかよ。札幌のホテルだって、この大災害の状況をわかってくれるはずだ!)と思いつつ、

「了解です。鳥取工場に問い合わせてみます」

と返信してしまった。

メールへの返事に苦戦するJ-CAST会社ウォッチ記者
メールへの返事に苦戦するJ-CAST会社ウォッチ記者

   その後もどんどんメールが殺到した。結局、20通中16通にだけ返事をして30分のタイムアップ。営業部長の秘密の案件で鳥取工場に問い合わせることも、仙台支店に物資購入の指示を出すこともできず、ただ来たメールに「了解です」「気をつけて」と返事を出すことに追われ続けた。

   「WEBインバスケット」が終わった後、グループ内でフリートーキング。全メールに返事をできた人はいなかった。こんな意見が出た。

「三重工場の津波行方不明者を助けにいくべきかどうかでは、やはり、高台にとどまれ、が正解でしょう。津波は何度も襲ってきますから」
「浜松の工場の対応も難しいですね。津波や火事がどんな状態かこちらではわからない」
「何でもかんでも上の指示をあおがず、地元で判断しろよ、と言いたい」

(やはり、三重工場の件は『捜索に行け』と言うべきではなかった)と後悔した。

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