「津波で行方不明の従業員を助けに行っていいですか?」
たとえば、東京支社からはこんなメールだ。
「静岡本社の被害状況は不明だが相当ひどいようだ。東京支社に災害対策本部を立ち上げたので、こちらに向かってください。なお、三重工場から連絡がありません。そちらで状況はわかりますか」
(これは簡単だ)
「了解。至急東京に向かいます」
と返信する。(おっと、三重のことを書くのを忘れた)と思ったとたん、鳥取工場からメールが入った。
「鳥取は震度4で被害が少ないです。工場長が有給休暇で不在なので指示を願います。工場に戻って内部の点検、けが人の確認を行なってもいいでしょうか」
(うん、震度4なら大丈夫だろう)
「了解。気をつけて行ってください」
と返信する。すぐに先ほどの三重の件で、恐ろしい第一報が三重工場から入った。
「状況を連絡します。工場で2名行方不明です。すでに津波に襲われて今も津波警報が出ています。高台に従業員を引き連れて避難しましたが、○○と××が見当たりません。従業員の中には津波の危険のギリギリまで戻って探そうという者もいます。また、家に戻って家族を助けたいという者もいます。どうしたらよいかわかりません。会社としての判断を教えて下さい」
(これは大変だ。どう指示をしたらいい?)。パソコンを打つ手が止まった。東日本大震災が頭に浮かぶ。結局、こう返信した。
「捜索に向かってください。くれぐれも気をつけて」
(これでよかったのか? 高台にとどまれと言うべきだったのでは)と迷う間もなく、浜松工場からも緊迫メールが。
「有給休暇で不在の工場長に代わり、指示をあおぎます。建物3棟中2棟が半壊です。近隣に火災が発生しています。すぐに指示を出してほしいことが3つあります。従業員の安否確認のため工場に戻っていいですか。家族を心配する従業員にどう指示を出すべきですか。帰宅困難な従業員がたくさんいます。何をすべきですか」
(参ったな。地元で判断できないのか)と思いつつこう返信する。
「気をつけて安否確認してください。家族を優先させて。壊れていない会社施設に泊めてあげて」