新入社員には、「おとなしくて真面目。言われたことはほどほどにこなす」安心・安全型と、「積極的だが、自分の考え方に合わないことには排他的になる」自己偏重型の2タイプがあるという。
それを踏まえ、新人・若手をどう育てていけばよいのか。企業の新人・若手育成を支援する株式会社ファーストキャリアの瀬戸口航(せとぐち・わたる)社長に具体的な対応法を聞いた。
経営者は「社会のリーダー」を育てる気概を持て
――東日本大震災の被災地に行って、経営者や行政担当者、市民に会って話を聞くという異業種交流研修の試みは、いいですね。三つ目の、経営者の観点から考えなくてはならないことは何でしょうか。
瀬戸口航さん「ポイントとしては、理想と期待が混じっておりますが、『自社の新人や若手を育成するのではなく、社会における未来のリーダーを輩出する気概』で考えてほしいと思います。一言でいえば、現経営リーダーとして、大きな器であってほしいということです。これからは労働の流動性が高まります。先ほど、当社の中途採用の面接をしたのですが、27歳で4社目です。簡単に転職ができる世の中だし、副業などで1度に3枚名刺を持つようになるかもしれません。
5年先、10年先の自社リーダーを若手から育てていくことは本当に難しく、チャレンジなことだと思いますが、人材の流動化を前提にして、『うちで3年間育てたら、外に自信を持って出せます』と、それだけ器の大きい会社だったらまた戻ってくるかもしれないし、他からも優秀な人がやってくるかもしれません」
――育てた優秀な若手を抱え込まずに外に出す。稚魚から育てて放流したサケが、大海で成長して戻ってくるようなものですね。
瀬戸口さん「はい、純粋培養ではなく、そうした雑種の血を持った人がこれからはリーダーになって行く気がします。若手を抱え込もうとすると、ジャンプ力は高いかもしれないが、外の世界を知らない井の中の蛙をつくってしまいます。そのくらいの度量を持った経営者がより多くなれば、自社、ひいては社会全体の成長に資することになっていくと思います」
――そういえば、「働きがいのある会社ランキング」で3年連続第1位のIT企業ワークスアプリケーションズでは、優秀な成績の内定者に3年間有効な「入社パス」制度を設けています。これは、内定しても卒業後すぐに入社しなくてもいい、その期間に他社で働いてもいいし、海外留学をしてもいい、戻りたくなったらうちに来なさい、というものです。いわば3年間の免罪符ですね。優秀な学生が他社に行っちゃうかもしれないのに、こうした制度を用意することのメリットはどこにあるのでしょうか。
瀬戸口さん「他社で働くことも認めるとか、いろいろな働き方を提示することで、結果的に優秀な人材が集まってくれるということだと思います。先進的な考え方を示すと、若い人は惹かれますから。それに、システムインテグレーター(情報システムの企画、構築、運用など)の業界ですから、人間の入れ替わりのスパンが短い。他社で半年くらい働いて戻ってくる人も結構多い。そうした流動化を効率よく促進する狙いもあるのでしょう」
「危機意識」の中で育ってきた新人をわかってあげよう
――ところで、ファーストキャリアのレポート(前編)によると、最近の新入社員は「安心・安全型」のAタイプと、「自己偏重型」にBタイプに分かれるとあります。それぞれ一長一短があり、接し方が難しい。管理職は、どう接していけばいいでしょうか。
瀬戸口さん「Aタイプは、上司が少しずつペースをつくってあげるとよいでしょう。『仕事というのはこういうものだ』と言っても通じません。及第点を確保できるような少し前のゴールを見せて、『さあ、ここまでやってみよう』と寄り添いながら前に進ませるのです。Bタイプは積極性がありますから、やる気をそがないように『やってみなはれ』と押してあげるとよいでしょう。ただし、自分本位になりがちですから、上司が一緒に考えながら目に見える成果をあげさせてあげるのが大事です。
ただし、彼らをAタイプとBタイプとレッテルを貼らないことが重要だと思います。AもBも実は根底では同じ傾向を持っているのです。同じ人間が、ある場面ではAが強く出るが、別の条件の元ではBが強く出たりします。だから、表層的な面だけを見て、この若者はAタイプだ、Bタイプだと決めつけないで接することがとても大切です」
――確かに人間はステレオタイプに分けられないですよね。AタイプやBタイプの根底にある同じ傾向とはなんですか。
瀬戸口さん「今は『個』が重視される時代ですから、彼らは給与や労働条件などよりも、どれだけ自分を見てくれているかということを一番重視して企業を選んでいるのです。研修や育成の期間でもそれは重要で、『いつも気にかけているよ』『よく見ているよ』と相手にわかる姿勢で接することが大事なのです。
ただし、背中ばかり見ていると監視しているみたいになるので、どんな小さいことでもいいから、何か貢献できることを渡してあげるといいです。今の若い人は他者への貢献を通じてアイデンティティーを確立する傾向があると言われていますから。それと『フルゆとり世代』に共通する傾向として、ほめて伸ばすことが大事です。当たり前のことですが、何か成し遂げたら『よくやった』『ありがとう』『君がいてくれて助かるよ』と心からほめてあげることです。それが若い人の自己承認につながるのです」
――誰だってほめられるとうれしいですが、特に「フルゆとり世代」には、ほめることが大事なのですか。
瀬戸口さん「それは、今の若い人の健全な危機意識からきています。若い人は別に優越感に浸ろうとしてほめられたいのではありません。『君の居場所はあるよ、ここだよ』と認めてもらいたいのです。ずっと横ばいの社会の中で生まれて育ってきていますから、ちょっとでも失敗したら自分は必要なくなってしまうのではないかという危機感があります。
最近は、AIに仕事を取って代わられるのではないかという心配もあります。SNSのような便利なものが流通するからこそ、社会から隔離されるのが怖いとか、不安が尽きないのです。管理職はそこをわかってあげてほしい。ごく当たり前のことですが、人間として対等に接してほしい。社内メールがきたら、見っ放しではなくちゃんと返信する、『ありがとう』『よくやった』『助かるよ』と絶えず声かけをしてほしいものです」(おわり)
(福田和郎)
【プロフィール】
瀬戸口航(せとぐち・わたる)
株式会社ファーストキャリア社長、株式会社セルム執行役員
早稲田大学商学部卒業後、大手コンサルティング会社で自動車業界を中心に新規事業開発支援・ビジネスプロセス構築などに従事。2010年ファーストキャリア入社。16年4月から現職。大手企業を中心に新人・若手人材の育成支援のコンサルティングや教育研修体系の構築を手がける。