中堅社員のなんと8割以上がパワーハラスメント(パワハラ)の被害を経験していることがわかった。しかも、被害を受けた人の3人に1人が「解決策」として「退職」を選択、泣き寝入りをしているというのだ。
人材採用・入社後支援の「エン・ジャパン」が35歳以上を対象にした「パワーハラスメント・アンケート」調査で、深刻な実態が浮かび上がった。2019年2月20日の発表。
「首をつかんで殴る、棒で叩く暴力を振るわれた」
パワハラとは、同じ職場で働く者に対して職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為のこと。現在、厚生労働省が、職場のパワハラ防止措置を企業に義務づける法整備を進めている。
調査ではまず、「パワハラを受けたことがあるか」を聞くと、82%が「ある」と答えた。これは性別や年代別にほとんど差がなく、8割以上の人がまんべんなく被害を受けていた=図表1参照。
パワハラを受けた人に被害の内容を聞くと(複数回答)、「精神的な攻撃(公の場での叱責、侮辱、脅迫)」(66%)が最も多かった。男女別に見ると、女性は男性に比べ、「人間関係からの切り離し(隔離、無視、仲間はずれ)」(45%)、「過小な要求(仕事を与えない、程度の低い仕事を命じる)」(33%)、「個の侵害(プライベートに過度に立ち入る)」(27%)などの回答が目立った。=図表2参照。
加害者で最も多かったのは「同性・年上の社員」(75%)だが、男女別に見ると女性は男性に比べ、「異性・年上の社員」(40%)が多かった。男性の上司・同僚から被害を受けるケースが目立つわけだ。
実際にあったパワハラ被害を聞くと、刑事事件になってもおかしくない事例も少なくない。
「『子育てをおろそかにしているのではないか』などとプライベートについて根拠もなく悪口を言われ、詮索をされ続けた」(35歳女性)
「首をつかんで殴る、棒で叩くなどの暴力を振るわれた」(36歳男性)
「ほぼ毎日、夜中に私への非難のメールが長文で送られてきた。その中には解雇をほのめかすような記載もあった」(36歳女性)
「子供が体調不良でも休ませてもらえなかった。さらに、深夜残業をしていると、私の仕事の進め方が気に入らないという理由で、30分以上も説教をされた」(37歳女性)
「自身の機嫌が悪いと、机を蹴ったり、人に向けて物を投げたり、圧力をかけてくる」(39歳男性)
「業務上のささいなことを洗いざらい拾われ、毎朝職場のみんなの前で叱責を受けた。そのあげく、突然有無を言わさず解雇された」(41歳男性)
「上司から椅子を蹴られるのは毎日。作った書類を目の前で破り捨てられたり、不可能な仕事を与えられて時間がかかるとみんなの前で怒鳴られたり、人格を否定され続けた」(41歳男性)
「リーダーからミーティングのスケジュールを知らされず、何度も遅刻や未参加となった。また、初めて自分が契約を取った案件から理由もなく外されたり、飲み会に1人だけ呼ばれなかったり、事実と異なる評価を言いふらされたりした」(44歳女性)
「家族のことを馬鹿にされたり、『今すぐ屋上から飛び降りろ』と脅されたりした」(46歳男性)
被害者は「退職」が35%、「耐える」が33%
さて、こうしたパワハラ被害を受けてどう対応したのかを聞くと(複数回答)、トップ3は「退職した」(35%)、「気にしないようにした」(33%)、「パワハラをする人とは別の上司や先輩に相談した」(31%)だった。「人事やハラスメント対応窓口に相談した」(19%)、「労働基準監督署など公的機関に相談した」(9%)など、積極的に相談・解決に乗り出すより、職場を去ったり、現状のまま我慢したりする道を選ぶ人が多いかったのだ。「その他」(21%)という回答方の中には、「成果を上げて見返した」「録音をして、パワハラの証拠を集めた」「異動希望を出し続けた」などの対応もあった。 「パワハラをなくすためには、どんな方法が有効か」と聞くと、「第三者機関による社内風土のチェック体制をつくる」(50%)が最も多く。次いで「厳罰化」(46%)、「パワハラの定義を明確にする」(46%)が続く。個人では対応しにくいので、会社が対策を練ることに期待する声が多かった=図表3参照。
一方、35歳以上の中堅社員ともなると、パワハラの加害者の立場にもなりかねない。そこで、「自分がパワハラをする側になる可能性や経験があるか」と聞くと、「根拠はないが、気をつけて行動している」(34%)、「パワハラの定義を知っており、気をつけているので問題はない」(31%)と合わせて65%が「ない」と答えた。しかし一方、「実際にパワハラをしたことがある」(2%)、「自分の行動がパワハラでは、と思ったことがある」(27%)と合わせて29%が「ある」と答えた。約3割が、自分が加害者になっているのではないか、と不安を感じているのだ=図表4参照。
「パワハラと感じたら教えて」と部下に言っている
パワハラにならないように気をつけていることでは、こんな事例があった。
「なにか注意をする際は、他人の目に触れないところで行なう。また、いまなぜ注意をしたか、理由を説明するようにしている」(35歳男性)
「仕事の指示を強めにする際、『パワハラと感じるようならすぐに改めるから、教えてほしい』と伝えている」(35歳女性)
「自分自身が日常的なパワハラを受けているので、部下や後輩に対してはそうならないように心がけている」(37歳男性)
「就業規則を改めて確認。規則に基づいた行動を徹底し、必要範囲だけの会話や行動に抑える」(38歳男性)
「指摘すべき内容をあらかじめ列挙し、それ以外のことは言わないことにしている。会話の流れの中で、別件の話が出ても注意しないように気をつけている。また、大前提として声を荒げない」(39歳男性)
「日頃からの信頼関係が大切だと思う。特にコミュニケーションをとる際に、年上であれ年下であれ、同等と思い、相手の言葉をよく聞き、接することを大切にしている」(39歳女性)
「感情的にならないこと。感情的になりそうなときは、いったん冷静になって考える。仲のいい同僚に、一度客観的に話を聞いてもらうと、感情の整理ができる」(44歳男性)
「教育のつもりが批判にならないよう、本人の成長に向けて改善点を提案し、最終的には本人の判断に委ねるという形を取っています」(45歳女性)
パワハラ防止の第一歩は、自分が加害者になってはいないかと謙虚に反省することだそうだ。
なお調査は、2018年12月28日~2019年1月31日に実施。対象は、「エン・ジャパン」が運営するミドル世代の転職サイト「ミドルの転職」を利用する35歳以上のユーザー2911人。(福田和郎)