【IEEIだより】福島・双葉町レポート(その3)解体という始まり 「町の様子を五感で感じる」

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「生きていくため」に必要な「解体」という作業

   「帰還」という言葉を聞いた時、当事者ではない私たちが思い浮かべるものは、懐かしいふるさとへ戻る人々の姿ではないでしょうか。しかし、この見学のあいだHさんの口から何度も語られた「帰還」という言葉は、それよりもずっと重いものでした。

「しばらくのあいだは家に片付けに来ていた人たちでも、繰り返し動物に荒らされるうち、訪れなくなった方もいます。昔の家に愛着があるからこそ、その家が荒れていくのが耐えられなかったのかもしれません」。

   Hさんの奥さんも、途中から家に帰ることをやめてしまったお一人だといいます。住民の方々にとってふるさとに帰れないことと同じくらいつらいことは、そこを「ふるさと」と思えなくなることではないでしょうか。

「子どもに『お前たちのふるさとはどこだと思う?』と聞いたんです。子どもはしばらく考えて『うーん...... 埼玉?』と答えました。双葉に住んでいた、ということは覚えてはいるんですが......」。

   では、この荒れた町を子どもに「ふるさと」と教えることができるのか。そして今避難している方々がこの土地を再びふるさととして愛することができるようになるか――。

   よそ者がこのような発言をすることは、「無礼」「不謹慎」と詰られるかもしれません。しかし福島の外でそれを問わない限り、帰還という言葉が漠然とした憧れのイメージを持ったまま、地に足のつかない未来計画ばかりが議論されることになりかねないと思います。

   では、帰還のために何が必要か――。もちろん買い物をする場所や医療機関などの生活インフラは重要です。しかしそれ以前に、生きていくために壊されなくてはならないものが、ここには確実に存在します。

   町中で進む家屋の解体作業。かつて誰かの大切な持ち物であった家がむき出しの柱や土台となっていく姿は、無残にも見えます。しかし、それは人々が血を流しながらもふるさとを取り戻すための、初めの一歩なのかもしれません。

   双葉町では、町の主要な建物を上空や中から撮影し、アーカイブ化を行う試みが続けられています。何年か後、この町がさまざまなものを壊し、再び美しい街並みを取り戻したとしても、その再興のために壊された建物の姿を、私たちは忘れてはいけないと思います。(越智小枝)

越智 小枝(おち・さえ)
1999年、東京医科歯科大学医学部卒。東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科。東京都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことで災害公衆衛生に興味を持ち、相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)や英国のPublic Health Englandで研修を積んだ。2013年11月より相馬中央病院勤務。2017年4月より相馬中央病院非常勤医を勤めつつ東京慈恵会医科大学に勤務。
国際環境経済研究所(IEEI)http://ieei.or.jp/
2011年設立。人類共通の課題である環境と経済の両立に同じ思いを持つ幅広い分野の人たちが集まり、インターネットやイベント、地域での学校教育活動などを通じて情報を発信することや、国内外の政策などへの意見集約や提言を行うほか、自治体への協力、ひいては途上国など海外への技術移転などにも寄与する。
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。
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