ほとんど知られていないが、2018年末、70年ぶりに漁業法が改正された。
衰退する日本の漁業を復活することが目的だが、果たして改正漁業法は日本の漁業を再興することができるのか――。
漁師も漁船も高齢化
水産庁の最新の水産白書(2017年版)によると、日本の漁業就業者数は15万3490人。一貫して減少を続け、平均年齢は 56.7 歳と高齢化が進んでいる。
漁業を営む経営体の94%が個人経営であり、平均漁労所得は235万円しかない。会社経営体でも平均漁労利益の赤字が続き、2016年度には漁労利益の赤字幅が1731万円となっている。
漁船についても「高船齢化」が進み、2017年度に指定漁業(大臣許可漁業)の許可を受けている漁船では、船齢が20年以上の船が全体の59%、30年以上の船も全体の21%を占めている。漁業は衰退産業であり、「惨憺たる状況」なのだ。
そこで、漁業復活のために漁業法が改正された。見直しの大きなポイントは二つ。第一は「漁獲可能量の管理強化」だ。現在、日本で漁獲可能量を設定しているのは、クロマグロなど8種。この対象を拡大し、乱獲を防ぎ、計画的な漁獲により資源保護と生産性の向上を図ろうという狙いがある。
ノルウェーなど北欧の漁業先進国と比べると日本の漁獲量は低く、漁業者1人当たりでは10分の1以下、漁船一隻当たりでは30分の1以下しかない。漁獲量が低いということは、収入が少ないということになり、収入が少ないということは就業者の減少につながる。
その一因は「漁獲可能量」そのものにもある。多くの漁業国では漁獲量を個別に割当ててコントロールしている。漁業者または漁船ごとに漁獲可能量を割当てることで、魚の価格を維持し、生産性を高めている。
つまり、日本の漁業のように、漁業者が出荷量を競い、豊漁の結果、魚の価格が値崩れし、生産性の悪い漁業になることを防いでいるのだ。
そのうえ、出荷量の競争は乱獲につながり、資源の減少を招くことになる。かつて、豊かだった日本の水産資源は1984年から減少しはじめ、現在の漁獲量はピーク時の3分の1まで減少してしまった。
大規模小売店法と同じ「ニオイ」が漂う
第二の見直しポイントは、「漁業権の優先規定廃止」だ。「漁業権の優先規定」とは、一定の水面(主に岸から3~5キロメートル)において、漁船漁業、養殖業などを排他的に営む権利を指す。
つまり、現在に漁業を営む事業者に対する既得権益であり、誰でもが自由に漁業を行うことができなくなっている。この「漁業権の優先規定」を廃止することで、漁業への新規参入、特に企業の新規参入を促そうというものだ。
しかし、この漁業権の優先規定廃止に対して漁業関係者は、
「生活基盤の漁業規定を廃止することは、漁業で生活が成り立たなくなる」
「企業が漁業に新規参入することで、個人の漁業者は廃業せざるを得なくなる」
などと強い反対の声があがった。
それでも政府は「漁業を行う経営体を強くする」ことで、日本の漁業を復活させるという選択をしたのだ。
確かに、日本の漁業は多くの個人漁業者による沿岸漁業が中心で、老朽化した漁船を使い、生産性の低い漁業を行っているのが実態だ。しかし、大規模小売店(スーパー)が地元商店街を滅ぼしたように、一概には、企業など強い経営体が漁業に参入することが、漁業を本当に復活させることになるとは言い切れないのではないだろうか。
その一方で、政府は漁業権の優先規定を廃止した後の漁業権の割当てについて、「適切に判断する」としている。優先規定を廃止しても、既得権に配慮した漁業権の割当てを行えば、新規参入は促されないだろう。
養殖業も含め、漁業の生産性向上を図り、漁業者の所得が向上して、新規就業者が増加する方策のあり方が、日本の漁業復活のカギとなりそうだ。(鷲尾香一)